京マチ子主演 「ああ離婚」

ハレルヤ・マチ子!

京マチ子を観ておかねばッ!
焦りにも似た思いで京都・南座に駆けつけた。
大変失礼だけれども、おんとし82歳(なんと大正14年生まれか!)の
女優さんなのだ。思えば杉村春子山田五十鈴中村歌右衛門と、
己の怠惰が災いして数々の「伝説」を見逃してしまってきた。
そうだ思い立ったが吉日! 金はなくとも行動力!! はい、観て参りました。


大輪の牡丹の花のごとく
うーーーーん……若いッ!! 舞台袖から現れただけで、場内が一瞬にして
「スター」のオーラに満たされる。「華」という言葉に出来ない、
成分の説明が出来ないものが確かにそこにあるのだ。
 何よりも「動き」が若いのが、凄い。
赤木春恵と二人でお酒を飲むシーンは圧巻。二人でやりとりをしつつ、
終始千鳥足でつんのめったり転びかけたり、ソファの上に乗っかって歌ったり踊ったり。
言葉にするとどーってことないようだが、こういう単調な動きで笑いを取るって、
とっても難しいことじゃないだろうか。40分もあるんですよこのシーン。
ちょっとしたニュアンスをつけてそれぞれの動きを変化させ、
場内を徐々に沸かせていく。ノセていく。うまいなあ……さすが元・舞台人。


伝統芸能の素地、ここにあり
「年寄りにしてはよく動く、そういう意味でのご祝儀笑いじゃない?」なーんて思っちゃいけません。
ここでの京マチ子が見せた「酔態」の面白さは、歌舞伎や狂言にある「棒しばり」とか、
日本舞踊における「芸者もの」や「頭」の踊りにおける「生酔」の踊りの面白さに通じるものだと私は思った。
そういう素地がキチンとあるんだなあ。そうでなきゃ長丁場「おちゃらけ」だけで持つわけがない。
そう、この酔っ払いシーンはそれだけで「芸」なんだ! 
それ以外にもシャンとした背筋、ほっそりした首筋の変わらなさ、
着物の腰から足にかけての美しい線など、体型の維持も驚異的。
(ちなみに私は三階で観た。一階で観てシワがどうのたるみがどうの、というのは「野暮」ってもんだ。
当たり前じゃあないか。それを気にしたくないなら三階で観るべきだ。
観てるうちに段々若い人に見えてくるのが役者の「芸」であって、そこに乗ろうともせず、
オペラグラスで覗いたり花道そばで美貌の衰えを嘆くようなことは、間違った見方だと私は思う)

 座長格である京マチ子を堪能する、という点では
群を抜いた満足を得られた公演でした。あと何日もないが、観られる方は観ておいたほうがいいですよ。


(さて……ここからはちょっとウザったい雑感になってしまう。おヒマな方のみ、どうぞ読んでみてください)


これだってひとつの「オーセンティック」じゃないか
話はごくごく、他愛もないものだ。4組の夫婦がそれぞれ危機を迎えるが、
紆余曲折の末、それぞれもとのサヤに収まっていく。いわゆる「商業演劇」。
橋田壽賀子作、石井ふく子演出。これだけでもう観たくない、と毛嫌いする人も多いようだ。
主にオシャレ系の人からは拒絶される世界、らしい。確かに「橋田的世界」のウザったい部分、
時代錯誤感、唯我独尊的うっとうしさというのは分かる。
しかし、今回この公演を見て痛烈にあることを感じた。


話は単純だ。「ちょっとした思いやりを大切に」的道徳観が話を支配する。
ありがとう、とひとこと妻に声をかけてみよう。
ごくろうさまです、とひとこと夫に声をかけてみよう。
そういう古き良き時代の礼儀を大事に、という考えが軸となってストーリーが展開する。
まるっきり昔懐かしの「東芝日曜劇場」の世界なんですね。
ありきたりで平凡な筋を「役者の力」でみせていく。不満もあるし、冒険もしたい。
だけど最後には「今そこにある幸せ」の大事さをかみしめる、という懐かしの展開。
「あーもうクサくてやんなっちゃう」という人の気持ちも充分わかるが、
今こそこーいうのが……必要なんじゃあないだろうか。
私はハッキリ言って京マチ子を観るためだけにいったが、不覚にも泣いてしまった。
人が人を思いやる気持ちの暖かさにほだされてしまった。
それは、京の演技力、表現力に泣かされたんだと思う。
こういうのって、新鮮な感動。気持ちのいい涙。
クサい道徳観が、芸の力で人の心を動かしたのだ。
 まあ勿論まるっきりコレになる必要なんかないけど、
こういう「ベタ」があってこその「前衛」「革新」があるもんじゃないか。
今は何でもありな時代で、「これがクラシックだ!」「スタンダードなんだ!」という
ドラマ形態がないから、何も「型破り」なものが生まれない。結構つまらない時代だと思う。
ありがちな筋、もう滅びてしまったような人の「情」を、芸の力で見せきってしまうような芝居を、
「これこそがホンモノだったんだ」とドンドン見せちゃおうよ。表に出そうよ。大人がもっと偉そうに謳おうよ。
若者に「こんないいもの知らないのか?」とバカにしようよ!
と、なんだか暴走してますが、「お若い人はこんな芝居好きじゃないわねえ」みたいな
世間全体が好々爺になってちゃイカンだろう、チミィ。と思うわけです。
などと森繁の真似しても誰も分かりませんね。
 ああ、こんな極論書くほどに京マチ子の芝居は良かった。
もっともっと元気で長生きなさって、私たちを愉しませてください。
羅生門』『偽れる盛装』『浮草』……日本映画史を彩る大女優の変わらぬ芸が、目の前すぐソコにある! 
私は終演のあと異様に興奮して、あてもなく京の街をぶらついていた。

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