谷崎潤一郎の食風景

花は桜、魚は鯛―祖父谷崎潤一郎の思い出 (中公文庫)

花は桜、魚は鯛―祖父谷崎潤一郎の思い出 (中公文庫)

前回につけたこの本から、晩年の谷崎が愛したという食の風景をメモしておきたい。

【春】
 熱海に移り住む前の京都・北白川の家の庭にはたくさんの野菜類があったよう。筍にはじまり、土つくし、ふきのとう、蕨、青じそ、赤じそ、三つ葉…とかく葉物、薬味には困らなかったとある。
「クレソンを裏の湧水に差しておくと勝手にいくらでもふえました」
「ふきのとうをつまんでおみおつけの実にしたり」
 うーむ…なんと羨ましい。ふきのとうの味噌汁って私は食べたことないなあ。いまのうちに真似してみようか。ただスーパーで売っているものと地採りのものでは香りがまったく違うから、谷崎の味を知る手掛かりにはならないだろう。
 そしてこの京都の家、洋野菜を栽培する農家の方がよく出入りしていたそうで、エンダイブラディッシュ、チコリ、ブロッコリー、オクラなども当時から食卓に上っていたという。
 この渡辺たをりさんは昭和28年の生まれ、10歳としても昭和38年ぐらいだろうか。作っているひと、その頃からいたのだなあ…残念ながらどんな風に食されていたかは書かれていない。そういうこと、編集者はぜひ聞いて補足して頂きたかったと思う。

 このほか春の味として若竹煮が挙げられ、谷崎家の女たちは「ニキビが出るしもうやめとこかしら」などと言っては好んで食べていたという。名作『細雪』のモデルとなった人々がいかにも言いそうなことで、情景を想像しては楽しんだ。
 大谷崎は食事の際、家人がきちんと身なりをととのえて、女の人はお化粧も直して席に着かねば機嫌が悪かったという(!)。映画『細雪』の冒頭、吉兆の会食のような美しい光景が目に浮かぶけれど、さぞかし大変なことであったろう。もちろん、お手伝いさんがいてのことだったろうが(『台所太平記』に描かれているようなお手伝いさんたちの話もこの本にはたくさん出てくる)。
 
 さて、続きは次回に。


○一日一句

3/14
 菓子えらぶ男の背中ホワイトデー

3/15
 
 取り入れた衣におまけ足長蜂



啓蟄をすぎたら本当に虫が動き出すというか…こんなに驚いたのも久々でした。


 刺客あり衣にひそみし足長蜂

3/16

 蘖や心にもあらんと思う朝

※蘖(ひこばえ)樹木の切株や根本から萌え出でてくる若芽のこと、なんだそうです。歳時記を読んでいると本当に飽きません。

3/17

 春の野辺花粉しらずの天下かな