「私の百人一首」白洲正子:著

白洲正子

 「別にいーじゃん」と思いつつも、私は「百人一首を諳んじられない」ということが結構なコンプレックスだった。古典文学や芸能を愛する人々にとっては「常識の最低ライン」、ってな感じだし、別に古典というくくりにせずとも、近代の小説家たちにとっても「必須知識」だったわけで。歌舞伎の感想を偉そうに書いたり、「好きな小説家は?」と聞かれて「うーん、よく読んだのは谷崎や三島かなあ」などとホザくたびに、胸の中でちょろっと「百人一首も諳んじられない奴がえーらそうに」と自嘲していたのだ。あんな知識の権化みたいな作家を愛読なんて言いつつ、この体たらくでどうする! そんな思いもあって、この本を手に取ったのは(我ながらビンボ臭いが)ちょっとした「お勉強」目的からだった。

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