鰻屋のメロン

これは「尾花」の鰻

 浅草寺から3分ほど、とある鰻屋さんでのこと。その店に入るなり、賑やかな笑い声が聞こえる。なんの集まりだろうか、10人ほど、それも男ばかりの小さな宴が催されていた。
 みな頭はすっかり白髪、またはあと何本かと数えられるほどのご年配。みな相好を崩し、楽しそうだった。胸襟を開く、という言葉が思い出される。いかにも学生時代からのつきあいといった風情で、談笑する姿に青年時代の面影がよみがえるようだった。こういった酒の席は、見ていても気持ちのいいものだ。なんとはなしに、お話を聞いていた。
 そのうちの一人の方が、スッと席を立たれ、
「所用があるので、お先に失礼」
 そういって会釈をされ、「また会おう」と言葉を交わしている。店の玄関に向かい、今まさに出んとしたそのとき。ひとりの仲居さんが、パタパタと草履を鳴らして追いかけてくる。
「お客様!」
 ちょっと赤ら顔のその人が振り返る。
「まだコースのデザートがあるんですよ、すぐお持ちしますから、どうぞお席へ」
 とても急いた口調だった。いや、いいんだよ、時間がないからね、と答え、その人は背を向ける。その途端、
「でも……メロンですよぅ!」

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