映画『ブロークバック・マウンテン』 

アカデミーがどう出るか。必見!

よく言われることですが、「障害」があればあるほど
「純愛ドラマ」ってのは盛り上がるんですね。
特に「メロドラマ」はこの傾向が顕著なわけです。
戦争(「哀愁」「君の名は」「ひまわり」)・病気(「ある愛の詩」)・身分の違い
(「ローマの休日」)・不倫(「慕情」「カサブランカ」)など名作いろいろ。
 この映画は、「60年代アメリカ」の「封建的な田舎」での「カウボーイ同士の恋愛」
という、もうこれは障害どころか「枷(かせ)」てんこ盛りのストーリーなわけです。
だから私は見る前に「あ、メロドラマ作りたいわけね」
「ゲイ恋愛ものってよく『迫害される』『おおっぴらにできない』という先入観から
ストーリー・テリングするよなあ、安直!」などと
斜に構えて観ましたが……うーん嬉しい誤算でした。素晴らしかった。
私は圧倒的に感動しました。以下、ちょっと生真面目にレビュー


■BROKEBACK MOUNTAIN■

「愛」というこの形も定義もないのもを、いかにして人間が獲得していくか。
その上で犯してしまう過ち、愚かな行為、苦しみ、切なさ、
いたわり、祈り……そういった様々なものをすべてひっくるめて、
「生きる」ということを、この映画は真摯に描いている。
 主軸にあるものは、もちろん二人のカウボーイの恋愛とその葛藤なのだが、
彼らの親兄弟、結婚相手(二人は女性とも寝る)、子供をも描きつつ、
監督のアン・リーという人はこの映画で、
人が生まれ、親が老いて、結婚し、子供が生まれ、自らも老い、そして子供が結婚する…
そういった足し算引き算のような、「人の営みの縮図」を描きたかったのでは
ないかと感じた。そう、言うならば「小津安二郎的世界観」に似たものを
私は感じたのだった。これは「無常観」という言葉に置き換えてもいい。
 人生とは何かがだんだん増えていって、何かがだんだん減っていく。そういうものだ。
だからこそ、決して減らない「何か」をつかむことの美しさ、尊さのようなものを、
監督は描きたかったんじゃないだろうか。


 淡々とつながれていくカット。無駄のない演出。あっさりし過ぎなぐらい。
オーバー過ぎず、それでいて豊かな、溢れるような情感。
セリフにならない「言葉」が、この映画には溢れている。
劇中、直接的な愛情を示すセリフって私が聞いた限り
「I miss you too much and I can hardly stand it」
(君がいとおしくてたまらない、そしてその気持ちに僕は耐えられなくなってきている)
だけじゃないだろうか。(英語できませんけどね)
「アイ・ラブ・ユー」の、一度も出てこない愛の物語。
それなのに、カウボーイ二人のまなざしが、物言わぬ表情が、後姿が、
あまりにも切なく、強く求め合う思いを充分に語っている。


彼らの20年以上に亘る愛情はラスト近く、衝撃的な展開を迎える。
それは一般的には、映画的には決して「幸福」な結末とは言えないだろう。
だが彼は、人生を生きるうえで、もっとも大切な「魂のよりどころ」を手に入れたのだ
揺るぎない「心のよりどころ」をしかと確認し、それと共に生きると誓うラストシーン。
それはあまりにも厳しく、崇高な「ハッピーエンド」だと私は思った。


3月4日東京・シネマライズにて先行ロードショー。16日だったかな、
全国公開だそうです。こんなこと思うの初めてだが、
一人でも多くの人にお勧めしたい映画だ。
私は最後のクレジットが消えるまで、涙と共に映画の余韻にひたっていた。


(公式サイト)
http://www.wisepolicy.com/brokebackmountain/


●追記
結局、アカデミーは作品賞を取れず。監督賞、脚色賞、音楽賞の3部門にとどまった。


●今日の一食
麹町「光知乃(みちの)のおでん」
http://www.gnet-chiyoda.ne.jp/shop_hp/michino.html


ひさびさに「……おいしいなあ」と思えるおでん屋さんでした。
はんぺんのふわふわ具合、たけのこの若々しい味、ちゃんと鰯をすった風合いのつみれ、
ほこほこのじゃがいも、少し片栗をつけて美味しさを
逃がさないようにした牡蠣……何一つ「イマイチ」と思うものはなく。
「きちんとした正しい仕事」という形容がピタリと来る美味しさでした。
デートという感じではなく、酒好き、それも日本酒好きと一緒に
食い倒したくなる店です。イカのワタ焼きやらほや、くさやなど
ノンベエのためのサイドメニューも充実。


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