映画『トランスアメリカ』

女優魂、ここにあり

トランスアメリカ』(2005 米)
監督・脚本:ダンカン・ハッカー 
出演:フェリシティ・ハフマン、ケヴィン・ゼガーズほか
主題歌:ドリー・パートン 
ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞
アカデミー主演女優賞ノミネート


うわー面白かった! いーもん観た! 
なんと公開が7月下旬というから随分先なんですが、
感激を忘れないうちに文章にしてみたい。

主人公は、トランスセクシャルのブリー。
簡単にいうと「性同一性障害」の人ですね。乱暴な説明かもしれないが、
「女」なのに「男」の体で生まれてしまった人と考えていいと思う。
法的にも医学的にも「性と体の不一致」が認められると、
男性器を女性器へと変換する手術が受けられるのだ。
もうすぐその手術が受けられるというとき、なんと「息子」の存在を知らされるブリー!
寝耳に水! 若い頃にたった一度だけしたセックスで出来た子供と対面するが、
自分が父親と言えずに……。というのが乱暴な粗筋。


はっきりいって「ご都合主義」満載。「タイミング良過ぎ!」ってな
偶然がイッパイですが、それを気にさせないぐらい主演の2人が素ッ晴らしい。
「豊胸オペ済みの女性ホルモン投与中男」という難役を演じた女優、
フェリシティ・ハフマンはオスカー・ノミネートも当然の名演!
何が素晴らしいって、周囲から「変人・奇人」扱いされてきた
人間特有のユーモア精神、強さ、脆さ、そして「傷ついてきた歴史」を
キチンと創造してるところだ。


親に分かってもらえなくても、誰に愛されなくても、
自分が自分を愛して生きていく。そう信じてきたブリーは急に「息子」に出会う。
その戸惑い、そして次第に生まれてくる「父性」とも「母性」ともつかない微妙な感情。
「自分は異常じゃない!」そう信じて生きてきたのに、子供に自分のことを告白できない。
もし、告白したら傷つけてしまうだろう。じゃあやっぱり自分は異常なのか!? 
そんなブリーの葛藤と苦しみの描き方が、
この映画を優れてものにしている最大の点。というのも。
ほっとんどのシーンを監督は「ユーモアタッチ」で描きつづっていく。
凡庸な監督なら、「感動」狙って「泣かせ」狙って
正攻法に綴っていくようなシーンを、必ず「ギャグ」入れて「オチ」つけて語っていく。
ブリーは、自分のつらい運命に泣き叫んだり、助けを大声で求めたり、
瞳を閉じて君を描いたりしない。どんなつらいことがあっても、困っても、へこたれない。
泣きたくなっても「意地」で笑いに変えちゃう。笑ってやる。
そうやって、この人は生きてきたんだなあと私は強く感じた。
そんなひとりの人間の「リアリティ」が、喜劇的なトーンの中にしっかりと一本通ってる。
だから、笑えるシーンが本当の「おちゃらけ」にならない。
だから、本当に哀しく、耐え切れなくなったときにこぼれ落ちる
ブリーの「涙」に、ものすごい説得力が生まれる。
悲しいことを笑いで表現するって、最も高級な表現の一つだ。そんな映画です。


まだまだ褒めたいことあるんだけど、最後にひとつだけ。
ブリーの息子役を演じたケヴィン・ゼガーズの演技もこれまたよかった!
少年から大人に変わる瞬間の表情、雰囲気をこんないい映画に収めることができて
本当に幸せだと思う。ラストシーン、親子としてやっと「ゼロ地点」に立った
二人の姿をみて、ヒトゴトながら私は「良かったねえ……」と嬉し涙にくれました。
公開はまだまだ先ですが、観て損はないと思う。
公式HP http://www.transamerica-movie.jp/


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