名女優の死 ―アリダ・ヴァリ―

アリダ・ヴァリ

強い、強い「意思」の目を持つ人だった。
もちろん同時代に作品を観ているはずもなく、
名画座やビデオでしかその存在は知らないけれど、
いつもアリダ・ヴァリの瞳には強い感情が燃えていた。

映画史の頂点に立つ作品といっても過言ではない『第三の男』、
あの映画に出演したというだけで私には「運命の女優だなあ」と思ってしまう。
『第三の男』……この映画の名を聞くたびに私は、
小学生のころ読んだ藤子不二雄の「まんが道」を思い出す。
安孫子素雄さんがラストシーンのアリダ・ヴァリについて
描いているのだけれど、それがとーっても
「ああ、映画観てシビれたんだなあ、良かったんだなあ!」と
伝わってくる興奮ぶりが印象的だったのだ。


それから何年かしてレンタルビデオ時代となり、
ようやく念願かなって『第三の男』を観られた。
その間にもよく「映画史上最大のサスペンス!」とか
文藝春秋映画アンケートでトップ作品!」なんて評判を聞いていて、
「実際に観たときガッカリしたら嫌だなあ」などと思っていた。
期待しすぎると、どんないい作品でも「こんなもんか」と思ってしまうことがあるから。
しかし、そんなことはすべて杞憂に終わった。
物語本来が持つサスペンスの妙味と、
オーソン・ウェルズジョゼフ・コットンの男優の迫力に
一歩も引けを取らない女優の輝きを、ヴァリはたった一人で表現していた。


それ以降も『夏の嵐』『かくも長き不在』『アポロンの地獄』など、
迷いのない強い女性を演じるときに、
その唯一無比の特性が光って、観るものを圧倒した女優だったと思う。
享年84歳、本当にお疲れさまでした。安らかに。


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