日本舞踊の会にて―古典のよろこび―

友人Nの日本舞踊のおさらい会があって、東京・三宅坂にある国立劇場へ。
奈良をしのぶ校倉造の建物に松が映える。いい陽光だ。
日舞のおさらいってのはいいもんである。
ご流儀おそろいの黒紋付に身を包んだ名取連中。
伝統芸能の世界だと「方々」ってことを「連中」と呼ぶことが多い)
藤間流家元派のこちらは流水に扇、扇模様として藤を染め抜いたものであった。
家元である歌舞伎俳優・尾上松緑の特別出演もあり、
にぎにぎしいことこの上ない。

初舞台となる彼女、日頃は丸の内で働く書籍編集者だ。
最近は伝統芸能を習わんとするマスコミの女性が本当に増えたと思う。
私の周囲でも、茶道、香道、お仕舞いまで習ってる人がいるのには驚いた。
とあるグラフィックデザイナーの友人が
「習字ならってるのよ」というので「四十の手習いか」などとタカをくくっていたら
みごとな草書体の筆致をいつのまにか習得していて度肝を抜かされたこともある。
一様にみな、「異世界でのひととき」を非日常的な時間として楽しみつつ
芸道に精進しているのが面白い。たぶんそういう時間って
「私じゃない私」を演じて、息抜きとはまた違う喜びをかみしめているのだと思う。
変身願望とも違う、おんなが誰しも持つ「女優欲」の発散といえばいいのではないか。


話が大幅にずれた。
国立大劇場の楽屋というのは大きな一本道で、赤い絨毯がしいてあり中々いい情緒だ。
その部屋のかしこに暖簾(のれん)がたなびく。
藤間流だから、そのさまざまに藤の花房が染め抜かれ、時期にも合って風流なものだ。
大ぶりの藤の花をいっぱいに描いたものもあれば
小ぶりに藤を散らし小紋のようにしてあるものもある。
そしてその暖簾からは大振袖から留袖までぞろぞろと、
さまざまな頃合の女たちが出入りしていく。
出演者からその母親、師匠に弟子孫弟子。
その裾に袖にも藤やら花、日本のさまざまな意匠が染め抜かれ、縫いあらわされる。
これほどに色豊かな楽屋というのも日本舞踊のおさらいだけであろう。


友人は芸者姿で長唄「都鳥」を踊ったが、
初舞台とは思えぬ堂々とした出来で、こちらが軽く驚いた。
舞台がはけて早々に失礼したが、一歩楽屋口を出るとそこは
永田町が近いビルと排気の町。一瞬にして江戸は遠く、劇場はだから面白い。


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