「コパ・カバーナ」

 以前ここでも紹介しましたが、祇園の名妓から銀座にもバーを出店した伝説のマダム、
「おそめ」の評伝を読んで、にわかに戦後の水商売の歴史に興味がわいてきました。
http://d.hatena.ne.jp/hakuouatsushi/20060415
以前から出版されてたことは知ってたけど、手に取ることのなかった
「コパ・カバーナ」をぜひ読んでみようと思い立ったのが昨夜。
 知らない人も多いだろうけど(もちろん私だって行ったことがあるわけでも実際話を聞いたわけでもないけど)
コパ・カバーナとは数多くの芸能人や著名人の回想録にその名がく出てくる、超有名クラブだ。
ここで飲んだり交友することがひとつのステイタスだったらしく、様々な俳優の自伝などに
「若い頃はよくコパ・カバーナで遊んだりした」などという記述が出てくるので、
その名前だけは知っていたのだ。一番有名なトピックといえば若き日のデヴィ夫人がここで働いており、
スカルノ大統領と出会った場所、ということだろうか。


 この本は、仮名だろうが石橋栄子さんという実際にここで働いていた女性のひとりがたりだ。
写真の一点もなく、すべてがこの人の記憶に頼って描かれている。
コパ・カバーナという夢の城に焦点を当てた本かと思いきや、この人の一代記になっていて
実際コパ・カバーナが出てくるのはほんのわずか。その回想の仕方も
客観性ゼロで、美しい過去をいつくしみ、古きよき思い出を夢見心地で回想してるような本だった。ガッカリした。
この方に落ち度はないと思う。編集がいかにも手を抜いて、ずさんなプランのもと「ヤッツケ」で
出版しちゃったような手ぬるい感じを覚える本なのだ。石橋さんの回想に対してもっと誠実にウラを取ってあげれば、
よりひとつの裏文化史的側面が貴重な資料として活きたのになあ、と思う。もったいない。情けない。
(お店の場所や内装、当時の価格帯や実際に出入りしていた人々など、実際にデータとるぐらい簡単だったろうに)
実際そうとうな「記憶の美化」を感じるくだりばかりで、正直に言うと辟易して読むのをやめようかと思ったが、
にわかに最後のほうで俄然文章が生き生きしてくるのには驚いた。
この方日本橋浜町の料亭の娘だったそうで、その後没落し「みゆき族」の走りとなって
六本木野獣会」(大原麗子加賀まりこがいた、アレね)にも入ってて、
その後コパ・カバーナのホステスになるという忙しい経歴なんだそうだが
(まあすべて自分で言ってるだけなので本当はどうか分からないのだけれど)
後年は賭博にも従事、逮捕されて実刑をくらってしまう。その刑務所のくだりが実に面白かった。
「女版・塀の中の懲りない面々」的面白さ。はじめて本当に自分の言葉で語っている、という真実味があった。
(意地悪な言い方をすると、だからこそホステス時代のくだりはイマイチ信用できないのだけど)
まぼろしのような夜の蝶から、やっと晩年に自分の生活というものをつかめたのだなあと
読後感はさわやかであった。


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