相合傘

hakuouatsushi2006-06-18

「いるものだけ買ってすぐ出よう」
今にも泣き出しそうな空模様で、家を出るのはためらわれたのだけれど、
振り出したら絶対に外には出ないだろう。食べるものはおろか、水も牛乳もない
冷蔵庫を見てスーパーへ駆け出した。
 こんなときに限って、好物の品がいろいろと特売品になっている。
「缶詰3つで150円」などと、「そんなにいるだろうか。でも安い……」と無駄な逡巡を必要とする
セール品も。腐るものじゃないし、でもいつ食べるだろうか。
気がつけば随分スーパーで長居をしてしまった。
案の定、雨はけっこうな降りようでスーパーの入り口に私を引き止める。もう何も買わないよ。

 重い袋を片手に雨宿りをしていたら、向こうから相合傘のふたりがゆっくりとやってきた。
地味な紺色の傘の間が、やけに離れているのが気になった。相合傘、という距離ではないほどに。
不躾を承知でよく見れば、傘の下には中学生なのだろうか、子供でもなく大人でもないふたりがいる。
いまどき珍しいほどに、襟足も横髪も伸びるままに伸びた男の子。
やりすぎなほどに「めかしこむ」(すごい死語だけれど)ガキが多い中、
彼の風貌はむしろ好感のあるものだった。
 女の子も素敵に素朴で、自分で切ったのか母親が切ったのか、まっすぐに前髪が揃えられている。
浅黒く日焼けした男の子は、彼女のほうをただ、みつめている。
それに気がついているのか、知らないふりをしているのか、
女の子はただまっすぐに地面を見つめて歩く。
言葉もないままに、男の子は右半身を、女の子は左半身を濡らしながら、歩きつづける。
雨を厭うでもなく、ゆっくりと歩いているように、私には見えた。


交わらない視線と、無言という会話。
私の思い入れだろうが、とても豊富な感情のやり取りに思えた。
あんな相合傘を私はしたことがあるだろうか。通り過ぎた彼らをもう一度見たくて目をやれば、
角を曲がったのか、もうどこにもいなかった。
 出来すぎなようだが、見れば隣の家の庭にくちなしの白い花が咲いている。
落語のサゲのようで自分でもおかしく、家に向かって私は走り出した。


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