「桶川ストーカー殺人事件――遺言」 清水潔:著

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)


すでに絶賛を浴びた本だ。今更何を言うことがあろうか。しかし、書き留めずにはおれない。
この本を今読み終えて今、シンプルに、「なんてすごい本だ」という言葉しか出てこない。
呆気に取られているのだ、打ちのめされているのだ。
すごいものを読んだ、という虚脱感にも似た気持ちでいっぱいだ。
本作はドラマにもなったし、取り上げられている事件のことを知らない人は少ないだろう。
(なーんにも知らないって人は多分、ドキュメント本など読まない人だろうから
関係ないか。はい、嫌味です)
この本が取り上げられているテーマは「捜査における警察の怠慢」「ストーカーの恐怖」「マスコミと権力の関係」
「週刊誌とは何か」「裏世界」などなど、それだけで一冊の本ができるテーマばかり。
長年「FOCUS」の記者をされていたという著者の清水さんは、
それらに対してものすごく感情的で、直球な意見をぶつけてくる。わかりやすい。
それでいて、「どう思うか」という判断はすべて読者に委ねる大変フェアな書き方をされている。
こうスッキリまとめることって中々出来ませんよ、大抵自分の思う方向に物事の判断を
導きたくなるもんだもの。すっごいバランス感覚。


なんといっても、陰惨でえげつないストーキングという主題を扱いながら、
また当事者達にとっては地獄としかいいようのない悲惨なドラマでありながら、
「読み物としての(あえてこの表現を使うが)面白さ」があるのが……神業です。
もちろん、彼が本作を産んだ最大のエネルギーは「義憤」、記者としての「公憤」というものだと思う。
しかし、どんなに美しいモチベーションでも、内容が立派なルポだとしても読み手は面白い、うまい文章でなければ
読まないのだ。読んじゃくれないのだ。なんにも世間に「声」は届かないんだ。
ストーカー犯たちの恐ろしさ、警察の怠慢を伝えることを軸にしながら、
「一流」マスコミ(記者クラブに在籍する報道関係)と
「三流」マスコミ(それ以外)の扱いの差異、事件取材における警察広報の対応などという
純粋に興味深いテーマなどを盛り込んで読み手を飽きさせない。
また、彼のペットであるハムスターの『のすけ』という存在が出てくるんだけど……これが絶妙な脇役となって
ストーリーを彩ります。二人の関係を読むにつれ、自然と読み手は著者にシンパシーを寄せてしまうだろう。
ある意味高級な読ませの「テクニック」なんだが、それがちっともいやらしくならない。
書き手の品性の問題か。


この本は、「自分を映す鏡」というレベルにまで達しているすごい作品だ。
読み終えたときあなたが着目するポイントが、すなわち今のあなた自身なのだ。
誰が許せないか。何が恐ろしいか。何に怒りを感じるか。何を悲しむか。
そこを突き詰めて考え、そこに関する知識をより得て、そして忘れないことが、
非常に有益なんじゃないかと、私は思う。


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