女の【対決!】映画 『疑惑』(野村芳太郎作品)

デザイン作成:本谷秀人

 私は強い女が好きだ。妄執の女、自我の強い女、いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。今日はその第3回。
※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思いますので、もしやってる方がいたら見てみてください。「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


■■【対決!】映画最高峰・『疑惑』■■
1982年 松竹作品 監督:野村芳太郎
出演:桃井かおり岩下志麻山田五十鈴北林谷栄柄本明鹿賀丈史三木のり平、むねはる君。
キャッチコピー:「燃えろ女の野望、悪の限り


「アバズレ」「すれっ枯らし」「ズベ公」「はすっぱ」「スベタ」「毒婦・奸婦」……日本語にはなんとヒドイ女を表現する言葉が多いことでしょう。しかし、これらの単語すべてを用いてもこの映画の主人公を表現し尽くすことはできません。
間違いなく日本映画史上最大にして最強のビッチが、本作の主人公・若き日の桃井かおり演じる「鬼塚球磨子」(おにづかくまこ)です。まずは、彼女の華麗なる履歴書からご覧ください。


●球磨ちゃんのデビュー時代
昭和29年九州生まれ。寂れた田舎で貧しく暮らし、高校は当然のごとく中退。まだ20歳にもならぬうちから博多でホステスを開始。そこで早くも世間知らずのボンボンをとっ捕まえ、家を買ってもらうやいなや昔の情夫と結託して恐喝、家の権利書を奪って即離婚。それを売りさばいて1億円ゲットします。わらしべ長者だってこうはいきません。


●憧れの「銀座のママ」に
その1億円を元手にして銀座にバーを開きます。田舎で辛酸をなめた球磨ちゃんにとって銀座は夢のまた夢、自分にとってはまさに成功の象徴でした! しかしカッペが突然ザギンに乗り込んだって早々うまく行く訳ありません。そこで球磨ちゃんどうしたか。答えはシンプル、ホステスに売春を強要するわ得意客を強請(ゆす)って金巻き上げるわ、直球なやり方で荒稼ぎ。当然そんなことが長続きするはずもなく、あえなく倒産。ラストの日、自分の夢がついえたことにムシャクシャした
球磨ちゃん、あろうことか使ってたホステスの顔を「ガスバーナー」で焼やしちゃいます! キレてホームレスに暴行する中学生より理性がありません。


●堂々の「前科者」に
もちろん実刑くらって3年ほどクサイ飯食うハメに。当然です。シャバに出てきても当然更正などするはずもなく、今度は新宿区歌舞伎町というこれまたエグいエリアでさらなる獲物を狙います。そこでもまた大金持ちゲット……世界的な辣腕スナイパーですね。その男とドライブを楽しんでいるところから、この映画は始まるのです。


「ボチャーン!!」
 夜の富山湾に沈む車。助かったのは球磨子、死んだのは亭主。彼には3億円もの保険金が掛けられていました。この状況ではマザーテレサだって「クマコサン、ハンニンデース」というに違いありません。しかし彼女は反論します。「あつぁしは助手席にいたのよォッ!!! ここで弁護人として登場するのが、大女優・岩下志麻です。
 球磨子が感情の赴くまま「計算ゼロ」で生きる魔性の女なら、この弁護士・律子はすべて計算し尽くしてから理尽くめで動く知性の女です。「激情」と「冷静」、正反対の感情の一番いやらしい部分を、これでもかと全編を通じて二人の女優はマーライオンのように吐き続けるのです。誰もが球磨子を犯人を思う中、律子はある意外な発見をして……。
 松本清張原作の本格法廷ミステリーとしても一級品なんですが、この映画の凄いところは、真逆に見える「クソビッチ」と「インテリ女」の嫌な部分は実は表裏一体のものである、と描いたところですね。二人はベクトルは正反対でも、自分の信念のままにしか生きられない、「不器用な女」なのだと。高慢ちきな弁護士と獰猛な悪女がただ暴れまわる映画なら、ここまでの名作にはならず多くの支持も得られなかったと思います。最初は「なんて嫌な女だろう、なんて馬鹿な女だろう」と理解し合えない二人ですが、審判が進むにつれ、奇妙な連帯感さえもが生まれていきます……。
 脇を飾る山田五十鈴名古屋章三木のり平北林谷栄などの名演も最高、歌舞伎でいうところの「ごちそう」がこんなに詰まって、なおかつ効果的に折り詰めされている映画もそうそうありません……まさに「悪の吉兆弁当」ともいえる本作のラストはシャンパンファイトならぬ赤ワインファイト。葡萄酒は「飲む」ものではなく、「ぶっかける」ものだと二人の大女優が身をもって教えてくれますよ。
「傍若無人」「見下す」「公衆の面前で罵倒する」「シメる」「女王然」「泥水」「たらしこむ」こんなワードにピン!とくる方は必見です。中毒にならないよう、ご用心ください。


※この文章は「CDジャーナル」(音楽出版社)2006年5月号の「ヒロポン映画劇場」に掲載分を加筆訂正したものです。


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