女の【対決!】映画『女帝 春日局』(1990年 東映)

もえる十朱

私は強い女が好きだ。妄執の女、自我の強い女、

いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが

実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、

強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。

たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。

なんのために。今日はその第5回。


※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。

そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思います。

もしやってる方がいたら見てみてください。

「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


■■女帝 春日局(1990年 東映)■■
監督:中島貞夫 出演:十朱幸代、草笛光子淡路恵子
名取裕子鳥越マリ若山富三郎ほか
キャッチコピー:「わたくし、権力に抱かれとうございます」


●はじめに
「欲張りすぎた一作」……私は本品を思い返すとき、この言葉がまず真っ先に脳裏をよぎります。
製作者達の思惑を「これでもか」とテンコ盛りにした結果、どーにもこーにも収まりがつかなくなってしまった
人口密度タップリな「芋洗い感」、それをこの映画から感じずにはおれないのです。


■芋その1
「江戸時代に生きた女達の人生を香り高く!」(中島貞夫先生お得意の“をんな”の群像劇)
■芋その2
「さらに武士達の歴史ロマンも!」(文芸大作っぽい方向も目指して賞レースも)
■芋その3
「そしてお色気サービスも忘れず」(男性客対策・後述しますが犠牲者は一人)
■芋その4
「けれどエロ過ぎずセクシー路線で」(十朱見たさにくるおばちゃんが引かないようにね)

海老芋もメイクイーンも農林2号もアピオスもごった煮状態。
これでは暴れ女馬をさばかせたら日本有数の中島先生も手のつけようがなかったことでしょう……。
ベクトルの定まらないまま物語はアチコチにぶれまくり、強引に話は終結春日局の波乱万丈ドラマを期待した人、
群雄割拠な歴史ドラマを期待した人、大奥的ファンタジーを期待した人、橋田壽賀子
春日局」的世界を期待した人、もうすべてが「なんじゃこりゃあー!」と
ストレスフルに錯乱することうけあいです。
しかし! いつものように「女の【対決!】」目線で見れば、この映画はミドコロ満載、
好事家達の「笑いの琴線」をジャランジャラン鳴らしまくるポイントにあふれてます。
ちょっとここで検証してみましょう。


●大奥筋肉番付・【横綱 十朱幸代】
もちろん主役・春日局を勤められております。歴史に翻弄されながらも、強い芯を持った一人の女性を
きちんと構築していますが……この女優さん「2時間ドラマ」の主演だと「まあなんて贅沢」感に満ち溢れ、
高級感が漂うのですが、どーにも映画だとその資質が活かされない傾向に思えます。
線の細さや声の可愛らしさが「銀幕の主演者」としては
弱く感じられちゃうんですね。そこを彼女がどうおぎなったか。
答えは……「腕力」、これですジャストシンプル。
薙刀振りかざす腰元達を朝メシ前のようにいなし、劇中の「立ち回り」は目を見張るほど。
その達者なアクションシーンはまるでJAC出身者のよう! ウソだけど。
この作品の新しい視点は、春日局の優れたところは「権謀術数」でも「乳母としての能力」でもなく、ひとえに
「腕っぷし」だったと喝破したところではないでしょうか。
ひとえに近頃は「ヴァーナル」一本で、青江三奈のような茶髪が眩しい十朱さん、
もう一度芝居で輝いてほしいものです。ああ余計なお世話。


●もはやオカルトの領域【透視家・草笛光子
「私には……お腹の子の股の間にある立派な『おちん』がハッキリと見えますッ!」
はいそこ引かないで。これは大女優・草笛光子さんが
劇中いきなりのたまいだす歴史に残る名セリフです。
将軍様の奥さんの筆頭子分である草笛先生。ボスである奥さんが男を身ごもるか、
女を授かるかはお家の一大事、その家臣の命運を分けるビックイベントです。
中々男の子が生まれず家が乱れるなか、草笛先生はユリ・ゲラーも真っ青の霊能力で
ハッキリとこう言い切るのです。ハクオー思わず停止ボタンを押して
リプレイで堪能してしまいました。
女優に「チンコが見える!」と言わせる映画ピンク以外そうそうありません。
ましてや還暦を過ぎ紫綬褒章まで取った女優が……。芸の道というのはかくも厳しいものなのでしょうか。
見方が違う。その後も草笛先生、人知を超えた行動ばかり。
「いきなりショック死したかと思えば落雷で一瞬復活」したり、そのゾンビ状態のまま
「『春日局はこの家に害なす女じゃぁ〜!』と叫び絶命」しちゃったり。
ケレン極まりないグレイテストな演技をフィルムに焼き付けました。すげえ。
この映画は彼女の怪演を堪能するためだけにある、といっても過言ではないのです。


●愉快なふたり・【淡路恵子&名取裕子】 
細かい説明は省きますが、淡路さんは「なみいる男達を前にして貫禄タップリに啖呵を切る」という
好きな人にはたまらないシチュエーションを披露。
これは『疑惑』で言うところの「山田五十鈴的エクスタシー」に分類されますね。
そして名取さんは「頼まれもしないのに良かれと思って突っ走る」さらに
「必要もないのに大芝居を打って悪目立ちする」という、
これまた好きな人にはたまらないシチュエーションをこれでもかと見せ付けてくれます。
これは『吉原炎上』でいうところの「藤真利子カタルシス」に位置づけられます。
自分で書いてて寒い気がしてきましたがもう引き返せませんね。突っ走ります。
名取さんはこの映画の中で、「大芝居うってるのに、なぜか昭和的な小芝居に見える」
という(世間的に)厳しいレベルにまで達しておられ、その勇姿は感動的ですらあります。
それはあたかも『Wの悲劇』に魅せられたあまり、
やたら意味もなく「私おじいさまを殺してしまった!」と
叫ぶような人達とどこか似通ったものすら感じてしまうのは
私だけでしょうか。私だけでしょう。


●特別付録その1【高瀬春奈
超個人的な意見で申し訳ないのですが……私は高瀬春奈という女優が出ている、もうそれだけで点が甘くなるのです。
彼女は劇中何をするわけでもありません。ただいるだけ。
立ってるだけ。凄んでるだけ。それでもう「おなかいっぱい」「いいモン見せてもらった……」という
感慨に浸れます。ああ、何が何のことやら分からないでしょうね。
うまく説明できねえなくっそお。
この人の声とか雰囲気って……なんだかとっても「アニマル」で「アブノーマル」な雰囲気が
横溢なんですよね。この人がやると「セックス」というより「交尾」。「威圧」というより「威嚇」。
「握手」というより「お手」。なんのこっちゃ。
ああ、なんの説明にもなってないですが、日本女優界の中でも間違いなく「異種格闘界」の雄。
そう、「女優」というより「女雄」。オンナなのにオス。
押忍! あの独特の声が象徴するアンドロジヌス的
ニュアンスをぜひ一度は味わってみてください。


●特別付録その2【鳥越マリ
今ちまたでは「バブル青田」なんて小物がのさばってますが、生き抜いてる人がバブルなんて語っちゃいけません。
本物のバブルは消えてこそバブル。80年代が生んだ見事な徒花(あだばな)、
鳥越マリさんが暴れまくっているのもこの映画の大きな見所です。
思えば体当たりな女優です……珍作「東雲楼・女の乱」では
「ほとんどスッポンポンで広大なセットを追い掛け回される」というシーンを熱演。
それを見たとき私は「ああこれが『芸術のためなら私、脱ぎます!』という
女優の決断ってやつのなか……」と感動を覚えたものです。
まあただ単に「映画」という名の下に許される「セクハラ」にしか見えませんでしたが。
そんな鳥越さん、今回は「春日局を慕いながらも、その夫を誘惑し『馬乗り』する」ってなハレンチシーンを
思いっきり演じてます。まるでロデオみたい!
バンテリン」の米倉涼子さんに見せてあげたいほどです。失礼しました。
にもかかわらず鳥越さん、「最後は春日局のために身を挺して守り抜く」という
「実は多重人格障害だったんじゃないか」とも思える
難役にトライしてるのです。え、何書いてるか分からない?
ええ、私もこの役が理解不能なんですから当然でしょうね……ただひとつ明白なのは、
「男性客用の直球なお色気シーン」を担当させられたということだけでしょう。
そんな女優が20世紀の終わりにいたことを、私はここに記しておきたいのです。
なんのために。


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