女の【対決!】映画 『何がジェーンに起こったか?』(1962 米) 1

hakuouatsushi2006-09-12

私は強い女が好きだ。妄執の女、自我の強い女、

いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが

実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、

強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。

たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。
いったいなんのために。今日はその第7回!


※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。

そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思います。

もしやってる方がいたら見てみてください。

「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


■■『何がジェーンに起こったか?』(1962年アメリカ)■■
監督:ロバート・アルドリッチ 主演:ベティ・デイヴィスジョーン・クロフォード


「きれいだった人」……これほど悲しく、残酷な言葉があるでしょうか。
 かつて美貌でならした人が加齢により衰えていく。
自然の摂理とはいえ、できることなら目を背けたい現実です。
 しかしなぜか人は、かつての美人女優や往年の人気アイドルを
「今はどうなってるのッ!?」「見たい!」という欲求に駆られるもの。
「わちゃー」「見なきゃよかった」という結果にしかならないというのに、
この手の特集は常に雑誌の人気企画の一つです。
もう30年近く中吊りの定番フレーズになってますが、
「あのいい女どこいった」などという見出しをご覧になったことがある方も多いでしょう。
(いきなり話は脱線しますが、この手の特集で何年かに一度
必ず出てくる「小鹿ミキ」が私、好きだった……) 


 閑話休題。さて、かつての容色が美しければ美しいほど
この手の欲望(というか怖いもの見たさ)はアップするようです。
 それが「ハリウッド美人女優」クラスなら
大衆の要求はいかほどばかりでしょう。そんなみなさんに朗報。
 この映画こそは、その昔ハリウッドで
「絶世の美人女優」だった二人がシワもたるみも隠すことなく
カメラの前に姿をさらし、暴れまくったという怪品なのです。
 その壊れ具合たるやハリウッド映画史上でもトップクラス。
日本でこのパワーに対抗しようと思ったら
ゴジラ」か最盛期の「栃錦」の突っ張りぐらいじゃないと 無理でしょうね。
   断言しますが、この映画の主人公・ジェーンは
間違いなく世界最強のバーさまです。エレンディラだって敵わない。
 この作品を知らずしてホラー、サスペンス映画を語るなかれ!
 そのジェーンを演じるはベティ・デイヴィス、その演技力と気の強さでは
ハリウッドでもキャサリーン・ヘップバーンと並び トップクラスと謳われた伝説の女優です。
 この人が「かつての人気子役で今は落ち目、でも気位だけは昔のままの手に負えない女」を演じます。
書いてるだけで痛々しい……。そしてその妹を演じるのはジョーン・クロフォード
この方もハリウッド・レジェンドを築き上げた大女優のひとりで、
1930年代に君臨した絶世の美女です。 鼻っぱしの強さも伝説級で、そのワガママぶりには
多くの映画人が手を焼き胃をやられ出社拒否に陥ったとか。
日本でたとえるならそう、「小川真由美」クラスといえば想像がつくでしょうか。
以前にもここで解説した映画『鬼畜』の冒頭、小川真由美岩下志麻の対決シーンがずーーーっと続くような映画、
それが本作なのです。うっわあ観てて疲れそう……。
簡単に2人の関係を説明しましょう。


●妄執に生きるジェーン
子役時代にちょっと売れちまったもんで
「生意気の権化」みたいな性格のジェーン。
しかし「子役大成せず」の言い伝えどおり、
大人になったら「ドヘタクソ」と罵られホサれちゃいました。
代わりと言っちゃ何ですが、妹の影で地味に暮らしてきた
姉ちゃんがいきなり人気女優に。 悔しいッ! 当然ブチ切れるジェーン。


●謎の事故
人気絶頂のお姉ちゃん、いきなり暗闇で車で轢かれて 下半身不随になるというアクシデントが!
人々は「妹がやったに違いない」と噂します。
そんな噂される人も相当どうかと思いますが、結局真相は闇の中に。
完全に女優生命を絶たれた二人は ひっそり隠遁生活を送ります。妹は
「アタシじゃねえよ……なんでこんなスキャンダルに
アタシがよぉ……」と恨み骨髄、酒びたりになって
憤懣やるかたない思いのまま何十年も月日が経ちました。

●バケモノ屋敷
そんなこんなですっかりババアになった二人、
心優しいお姉ちゃんは、いじけまくって性格も最悪な妹にほとほと手を焼いてます。
「しょうがない、精神病院に入ってもらいましょう」
唐突な決断のようですが見れば分かります。
姉に対する嫌がらせは想像を絶するレベルにマックス。
「ねえジェーンおなか空いたわ」「ほらよ」
といって出したのは姉のペットの小鳥。ぎゃあ!
懲りずにお姉ちゃん
「ねえジェーン、夕食はまだ?」「ほらよ」
といって出したのは天井裏のネズミ。こんがり。うぎゃあ!!
それを見て高笑いするジェーン。もう人間じゃありません。


「いやあもうダメ、この子に殺されちゃう!」
気づくのが遅すぎます。半身不随の姉ちゃん皆に
ヘルプ!とビートルズも真っ青なぐらい助けを求めますが 異常に勘のいいジェーンにことごとくさえぎられ、
バレるごとに手厳しい「セッカン」が……ああもう観てられない。
どーして女が女にキレるってのぁ、かくもオッソロしい異常なムードになるんでしょうか。
そしてとうとう堪忍袋の緒が切れたジェーン=ベティはとある凶行に及び……!


「老醜」「奇怪」「女優根性」「役者魂」「執念」……どの言葉も、
この映画のベティを充分に表現することはできません。
「悪」という、これ人間の複雑怪奇な心理を
全身でベティは演じきっています。まさに入魂、 ここがその辺のサスペンスやホラームービーと一線を画すところ、
この映画を永遠のマスターピースにしてるポイントなのです。
とかく「グロテスク」「怪奇もの」ということばかりがクローズアップされやすい映画ですが、
(まあそれもそのはず、ベティ様は必要以上に老いを目立つような厚塗り、
シワを大きく見せるようなメーキャップをほどこし、醜さを愉しんじゃってるような表情をこれでもかと
見せるのですから……)
「スタア」とは、「女優」とは何かということを
真摯に見つめた大傑作です。若さと栄光への妄執というまさに女優らしい、
女優ならではの「狂気」を、 ここまで描ききった作品は他にありません。
 あなたがもし、「鬼」を見てみたいと思うなら、 この映画をぜひご覧なさい。


※この文章は「CDジャーナル9月号」(音楽出版社)内の
ヒロポン映画劇場」に掲載されたものを加筆訂正したものです。


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