ある女優の死 ―竹久千恵子さん―

竹久千恵子さん

 ちょっとした夏日が続く9月の半ば、
今日も強い日差しでいい天気。いつもは億劫な洗濯も
心なしかすすみます。と、いい気分でテレビをつければ
ああそうだ、今日は自民党総裁選の日なんだなあ。
将来の布石のために出来レースに出る、という絵図をみるにつけ、
こういった壮大な面倒をこなせる人でなければ政治家なんかにゃ
絶対になれないんだなと思いますね。すごいわ。
 さて今日はちょっとしたトピックを書きとめておきたい。
だーれも気に留めなかったかもしれないが、私にはとある感慨をもたらしたのだ。


●ある女優の死
 女優の竹久千恵子さんが亡くなられた。
と、いっても一部の映画ファンにしか分からない名前だろう。
享年94歳、エノケンこと榎本健一率いるレビュー団「カジノ・フォーリー」とか
現在の東宝の前進となるPCL時代の映画なんかに出ていた人。戦前からの古い女優さんだ。
 もちろん私がそんな頃を知ってるわけもなく、
(一部では根強く「白央篤司はコールドスリープしてるんじゃないか」などという噂もあるようだが)
日本映画名作シリーズなんかでよくやる『馬』(山本嘉次郎監督)とか
安城家の舞踏会』(吉村公三郎監督)などに脇役で出演されているので知った程度だ。
原節子の戦前の作品なんかを追っかけていると、これまたよく助演で出ていた。綺麗な人だったと思う。
 何の関わりもないし、特に思い入れのある女優さんでもないのに、
不思議に「まだ生きてらしたとは……」と驚いてしまう。そして「亡くなられたんだなあ……」と切なくなってしまう。
原節子高峰秀子も現役を退いたとはいえ健在だから、それほど驚くことでもないか……いや、やはり94は長命だ。
 でもねえ、私のこの寂しさは、ひとつひとつ戦前映画の生き証人が、その命を全うしていくことに
対する焦りのようなものなのだ。やばい、早くしなきゃというムズムズ感。
 戦前という日本映画の「あけぼの」を知っている、出来るだけ多くの人と話してみたい、
話しておきたいという気持ちが、私の中にあることから来る焦燥感なのだと思う。
はい、だったら自分でドンドン動けばいいんですけどね……。
もう小津を語れる人も司葉子岡田茉莉子あたりが最終なのだなあ。
それ以上だと話してもあんまり通じなかったりするかもしれないし。はい失礼。
早くしなきゃ。早く肉声をとらえなきゃ。今年の夏、82歳の京マチ子主演舞台を観に
京都まで貧乏ライターの分際で出かけていったのも、そんな焦りからのことだった。
映画史を作ってきた人の「生の声」をいーっぱい聞いておきたい。
そのためにも早く世に出なければ、などと立身をたまには己に命じてみたりして。
 とにもかくにも、竹久千恵子さんお疲れ様でした。
素敵な映画時代をおつくりになられたひとり、安らかにお眠りください。


●蛇足
結構この手の人多いようだが、私の新聞をめくってすぐ「訃報欄」を見てしまうというのは
いったい如何なる欲求なのだろう。人の死を望んでるわけじゃないが……つい、見てしまう。不謹慎だなあ。


●お知らせ

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