丹波哲郎さん、逝く。

あの世では快感が倍増するんだなぁ

先日も吉田玉男さんの訃報に接したばかりというのに
今回もおくやみネタです。私、ブログ界の「中村メイコ」状態!?
いやまあ冗談はさておき、ある俳優への追悼をこめて今日の日記に。


■■丹波哲郎さん、逝く■■
不思議な人だった。
この人を見ているといつも私は「煙にまかれる」という表現を思い出してしまう。
「フラがある」という形容詞を思い出してしまう。いつでも本気半分冗談半分、
「ノンシャラン」なんて死に絶えてしまったような言葉がよーく似合う人だった。
そんな人が昨日亡くなってしまった。俳優・丹波哲郎堕つ、享年84歳。
 西荻窪にかつて仕事の都合でよく行っていた。とある編集プロダクションがあったのだが、
その側には大きな石造りの塀に囲まれた邸宅があって、地元に暮らす編集さんが
「ここはね、丹波哲郎の家なんですよ」と教えてくれた。クラシカルな大邸宅はいかにも丹波哲郎らしい、
古きよき時代のスター的な大仰さがあって、私はひとり「らしいなあ、さすがだなあ」と満足したことを思い出す。
晩年はほとんど露出も少なくなっていて、具合が悪いのだろうと思っていたから
「とうとう……」という印象だが、やはり一抹の寂しさを感じてしまう。なんだこの気持ちは。


 ひとつには、あういう時代がかったような奇人的キャラクターというのは、もう生まれてこないだろうなあ、
という寂寥感だと思う。彼独得の、彼一流のセンスというか芸能人的オーラというのは超人的なものだった。
だってあなた「死―後―の世界はあるのだぁ!」なんて言われたって
「あはは、そーなんだぁ」「うーん、そう言われちゃうとそうなのかもしれないなぁ」ぐらいのこと
思わせちゃうような人ですよ。『大霊界』なんて思いっきり啓蒙的な映画を作ろうが、
死後の世界をとうとうと語ろうが何しようが、ドン引きされない人だったのだ。
笑っちゃうけど、バカにはされない。マジなのかな、と思ってもどこか冗談めいている。
生前は気づけなかったが、それって「ソフィスティケーション」ってことでしょう。
洗練されたセンス、ってことだったんだなと今ようやく思いますね。これが他の俳優だったら
「やっばいわコイツ」ってな感じで黙殺されたか干されてしまったんじゃないだろうか。


 もうひとつ、この人の不思議な演技力は捨てがたい味があった。
なんなのだろう、「いつ見ても何やっても丹波哲郎」なのに、
説得力のあるキャラクター造りをきちんとこなしている不思議な感じは。
ああ、物書きの端くれとしては「不思議な感じ」などという児戯めいた表現は逃げでしかないのだけど、
もうそうとしか言い様がない。ジャック・ニコルソンのように
すべての役柄を自分に引き寄せてしまうような演技力だった。自分の中にある、
あらゆる性格要素をその瞬間だけ拡大して魅せてしまうような演技力。
真面目にもギャグにも対応できるような幅の広さは、軽妙にして洒脱。
そう、「ソフィスティケーション」という西洋風な感覚と、江戸から続く日本古来の「洒脱」という感性を
併せ持った俳優さんだったのだ。垢抜けたスケールとスパイスとしての「あやしさ」が、
彼の持つ本領だったのではないだろうか。
 最後に付け加えるが、あんなに「芸能人」らしい芸能人もどんどん少なくなっているなあと思う。
女優はしぶとくまだまだお元気だが(志麻も良子も真由美も……)、
男性でスター臭のある人でお元気な方、本当に絶滅寸前じゃなかろうか。そういう寂しさもあるのかもしれない。
 ともあれ、お疲れ様でした。素敵な演技と、数々の面白い言動を忘れません。
芸能史の一面を作られた尊敬をこめて。ありがとうございました。


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