花形歌舞伎「染模様恩愛御書・細川の男敵討」

東京でもやってくれないかな

 いやー普通似てない親子でも、年取ってくると「ああやっぱり親子だねえ」
「なんだか老けたら親に似ちゃって……」などと
似通ってくるケースが多いと思うんですが、本当に似ませんねえ
水谷八重子」さんはおいくつになっても。先日テレビで見かけたら
随分と「大御所感」は増したものの、お母様の面影からは
さらに遠く……お父様に似たんでしょうねえ。
 昔ビートたけしがテレビで「お父さんに似てるといえば
一番可哀想なのが『神津はづき』さんですね」と言っていたが……
いたづらに人をけなすようなこと書いちゃいけませんね。
今日は歌舞伎の長い感想。


●大阪・10月花形歌舞伎「染模様恩愛御書・細川の男敵討」


 昭和10年から上演が絶えていたという三世河竹新七の作品。
衆道が話の軸にあったり、大掛かりな舞台効果が話題になったり
色々トピックの多い公演だったが、結論から言ってかーなーり楽しく過ごせた。
観劇する興奮というか、エンタテインメントというか、
今の歌舞伎が忘れている部分を色濃く打ち出せた芝居だったんじゃなかろうか。
「劇場という空間にいる」ということ、それ自体の愉しさを私は久しぶりに思い出した。


 まず何といっても座長として染五郎の魅力、これが成功の第1の理由でしょう。
シャカリキに、ガムシャラに張り切っているのが、見ていて可愛いというか嬉しいというか。
観客達の「楽しませてもらおうじゃないの」という期待に充分応えようとするサービス精神に
唸りましたねえ……まさに時分の花開く。
 やっぱりこの人の本質は「二枚目」ではなく「2.5枚目」だなあと実感、変にカッコつけて気取るのは似合わない。(私は今までの彼の演技で一番の好演は「籠釣瓶」の下男・冶六だと思っているぐらいだもの)
不器用なほどに一途で、ひたむきな男の純情や忠義が似合う男なんだなあ。
君への忠、小姓への情を直球で演じきったパワー、まるで彗星のような超特急の勢いを感じられて嬉しかった。
そう、役者の「気」というものを貰えるような熱情ある芝居だったのですね。
歌舞伎座でそういうものが発せられるときは滅多に無いものなあ……。(大昔、歌右衛門がにらみをきかせている
ころのビデオからはそういうのがビンビン感じられるのだけれど。大御所たちよ、吼えろ!)
 演劇界の劇評じゃあるまいし、マニアしか興味のない重箱をつつくような評には興味ないけれど
(多分雑誌「演劇界」という本は書いたライター達が一番読んでて面白い本だと思う)、
ちょっとメモがてら愛之助についても書いてみよう。
 確かに綺麗だし、ソツはない。ここで終わればいい人のブログなのだが、やっぱり書いちゃう。
先日韓国映画『王の男』という作品を見たときにも思ったのだけれど、運命的な恋愛、それも
「男に見初められる男」っていうのはやっぱりねえ……傾国的なほどの「魔性」がなければ、
ドラマとしての説得力は生まれないんじゃないかなあ、って思っちゃうんですね。
それでいうとやっぱり『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンとかね、『桜姫東文章』を初演した頃の
若かりし坂東玉三郎とかね、そういった「時代に愛されている男」じゃないと無理だなあ、などと思うわけですよ。
(若い頃の美輪明宏にもややそういう雰囲気が感じられるが、あの方は「魔性」というよりも「魔物」感のほうが強い)
 まぁ話として成立するぐらいには愛之助さん頑張ってましたが。
でもなあ……宝塚の濃厚なレズビアン的雰囲気に慣れてしまっている京阪の奥様連には
ちょーっと物足りない衆道描写だったんじゃないか!? 「出し惜しみ」という感じすら漂って。はい、偉そうに。
 

 それから第2に、歌舞伎の古典的なセリフ術と所作、そして現代演劇の持つスピーディな転換と装置のよさが
いいバランスで融合していたことが、成功のポイントだったと思う。
 市川猿弥上村吉弥という二人の俳優の口跡のよさ、古風な風情は、場面場面を引き締め、
歌舞伎らしい香りを添え見事と言うほかなかった……すっばらしい。
雰囲気が現代的に暴走しても、二人が現れただけで濃厚な伝統のペースに立ち戻る。
この世代では一番巧いんじゃないだろうか。と、手放しで褒めてますね私。ここで止めればいいものを
また余計なこと書きますが、市川春猿という人は本当に不思議な人だなあ。
時折(今の)坂東玉三郎を彷彿とさせるような上質の美貌であることは間違いないのに、決して心奪われることが無い。
彼はいつでも舞台、というものから遊離した美しさをたたえている。決して役柄に入り込んでないわけではないのに、
水と油のように舞台と反発しあってるかのような雰囲気。不思議としかいいようのない性質だ。
彼が袖から現れると、舞台が中断してレビューが始まるかのような錯覚を起こしてしまう。
これは一体何なのであろう。うーん不思議だ。
 などとまあ好き勝手書いてきましたが、明日楽日なんですね。もし間に合う方はゼヒゼヒご覧ください。
 急に乾燥してきて加湿器を一年ぶりかな、引っ張り出しました。ノドを痛めてしまって苦しい限り。
みなさんもどうぞお気をつけください。それではまた明日。


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