『ヨコハマメリー』・『イカとクジラ』に関する追記2つ

hakuouatsushi2006-11-17

 先日、かつて横浜にいたという伝説のパンパン
ヨコハマメリー』という作品を観てきたとき、ごったがえす出口で
耳に入ったやりとりがちょっと面白かったのでメモしておきたい。
(参照:11月13日の日記http://d.hatena.ne.jp/hakuouatsushi/20061113)、
会話していたのは二人の女性、年の頃は50歳ぐらいだろうか。  


 メリーさんという人は家を持たない、いわゆるホームレスで相当高齢になられても路上生活を続けていた人だった。
この映画は彼女の人生を追ったドキュメンタリーの体裁をとりながら、
かつてGIがあふれ外人相手の娼婦が立ち並び、日本人も(あえてこの言葉を使うけれど)異人も
ごった煮のように混在していた異空間としての「ヨコハマ」、その失われゆくものへの追慕的フィルムだったと思う。
そこに私はなんともいえない感慨を覚えた。そういったものを知る人、
そこに生きていた人をフィルムに収めたいという映画人的な熱情に感じ入ったし、
野毛や伊勢崎のあたりにいまだかすかに残る不思議な、
ノスタルジックな場末感を生み出していたもの――それらを間近に見た気持ちで不思議に興奮していたときに――――。
「でもさあ、あんな歳まで道端で暮らしてたわりにお元気よねえ」
「そうねえ、何食べてたのかしらねえ」
「ロクなもの食べてるわけないわよねえ」
「結局毎日みのもんたじゃないけれど、ホーレン草がいいとか納豆とかいいとか言ってても元気な人は元気なのよね」
「メリーさん毎日歩き回ってたから元気だったのかしら」
「そうかもしれないわねえ」
「(二人)あははははははははは」
 
 うーん、良くも悪くも「おばさん」的発想というか、まあある意味ホガラカーというか健全な見方というか(笑)。
もう一瞬にしてさっきまでヒタっていたハマの旅情なんて吹っ飛びましたね、いや、嫌いじゃないんですよ
こういう角度。なんていうか……「大地に根っこはった見方だなあ」と思ってしまう。
揺るがないんだよね、自分の観点が。過去に外人将校と熱烈な恋愛をして以来、
立派な外人だけを相手に春をひさぎ、プライドを持って生きた娼婦の人生を鑑賞しつつも、
最終的な鑑賞ポイントは「老齢でも元気の秘訣」というその一点……揺るがない……揺るがないね
「おばさん」ってものは(笑)いや、バカにしてるんじゃないんです。こういう観点、すごく健全でのどかで
私はこういうおばさまが好きだ。こういうおばさまが多くてこそメリーさんのような
「徒花(あだばな)」が咲ける社会たりえるのだよなあ、などと思いながら神楽坂を歩いて帰った初秋のある日。


BRUTUS 12/1号
 さて映画特集のブルータス、ほんのちょっぴりお手伝いしたんですがまあそれはともかく。
私的にこれから絶対注目の監督(私が今一番待っているのは彼の次回作だ!)ノア・バウムバックの
見開きインタビューが載っている。12月2日から公開予定の彼の作品『イカとクジラ』は本当に良質な、
インティメートな人間の成長を描いた作品だと思う。両親の離婚ということから、
急激に精神的な成長を強いられる高校生の少年。ママが好きなのに許せない。
尊敬するパパもダメなとこがいっぱいあると見せつけられてしまう。
なんだよチクショー! 思いっきりグレてやりたくても育ちのよさが災いして
思いっきりはっちゃけられない……どんどん内向的にひねくれてアチャーな展開になっていくんだけど、
ラストには自分の(使い古された言い方だけど)「心のよりどころ」を見つけられて、
人間的にひとつ成長していく……そんなまったくもって現代的な、ひとつの「青春映画」だと私は思った。
 というか……「ああ、自分の映画だ!」とすっごく共鳴してしまった。他の奴がドー思うかなんて知らん、
俺はこーいう映画が観たかったんだ! と激しく胸が高鳴った。試写築地だったんだけど、
コーフンしてひとり銀座まで歩いちゃった。たいしたことないか。
 派手な展開もないし、人間のネガティヴな心理サイドを写し取るようなシーンも多い。
けれど、人間の心のひだとかあやとか、言葉に出来ない思いを描いた作品が好きなら
楽しめる作品なんじゃないだろうか。ラストの爽快感は保証します。
ひとりでゆっくり映画に向き合いたい気分のときなど、強烈におススメしたい。


イカとクジラ』公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/index.html
そしてこの映画を見た日の拙文:http://d.hatena.ne.jp/hakuouatsushi/20061004
よかったら見てみてね。


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