ある俳優の死 −仲谷昇さん−

hakuouatsushi2006-11-21

「球磨子、結婚してくれェッ! た、頼むッ!!」
プライドも何もかもかなぐり捨てて、若い女にひたすら愛を乞う
哀れな中年男・福太郎を演じた1982年の傑作映画『疑惑』が忘れられない。
俳優の仲谷昇さんが16日、亡くなられてしまった。


 この映画はとにかくキャスティングが素晴らしくて、主人公で殺人容疑をかけられるアバズレが桃井かおり
その弁護士が岩下志麻、桃井を雇っていたバーのマダムが山田五十鈴というキラ星の如き女優陣に
まず目が奪われがちなのだけれど、男優陣も錚々たる顔ぶれだった。丹波哲郎松村達雄鹿賀丈史柄本明
三木のり平小林稔侍、内藤武敏小沢栄太郎、そして仲谷昇桃井かおり演じる球磨子という女性に
心底惚れぬいちゃうウブなおっさんなんだがこれがまあ巧かったんだわ! たいしたもん。
地方の素封家の頭領なんだけど女に対してはからっきし奥手で、言いたいこともハッキリいえず
優柔不断で八方美人、若い妻のいいなりになるクタびれた中年の哀感を演じきって見事だった。
もうなんでもしちゃうんだから。土下座なんて朝メシ前、ひざまずいてサンオイル塗ってあげるし、
酔っ払って暴れる球磨子を飲み屋に迎えにいって介抱したり、高額の保険も言われるがままに何口も入り……。
しかしながらどんなに情けない男の体たらくを演じようとも、おのずと漂うインテリジェンス、
育ちのよさがどこかにあって、それがこの役に見事にハマっていた。学もあり金も名誉もある男が女で身を崩し
ボロボロになっていく……それは仲谷昇という俳優だからこそ活かしえた役柄であり、
作品を傑作にした一助だったんだろうなあ。未見の方はぜひぜひご覧ください、白央篤司自信を持って強力おススメ、
『疑惑』、すっばらしいですよ。
 そう……「ニヒルなインテリ」という今は絶滅したタイプの男優さんだったと思う。
(この「ニヒル」という言葉も死語ですねー、仲谷ともうひとり、日本を代表するニヒルにはかつて
天知茂」というニヒルの権化みたいな俳優さんがいたがもう20年以上前に亡くなってしまった……)
私の子供時代に「カノッサの屈辱」という面白い深夜番組があったがその司会をしてたのも懐かしく思い出す。
教授、博士、弁護士、裁判官……そんな役どころをやらせたらピッタシ、それでいて嫌味のない人だったと思う。
元妻が岸田今日子ってのもカッコいいよねえ、あーいう女性を妻に迎えようなんて素敵じゃないの、
度量が知れるというもの、大人の男って感じだなあ。もう一度その芝居を観たかった。
 素敵な演技をありがとうございました、お疲れ様でした。


 と、まとめようとしたらなんとロバート・アルトマン監督死去の知らせが!
あーあマジですかぁ……もっとずっと作品を観れると勝手に思い込んでいた。老いてなおカクシャクとした
イメージでしたが……82歳、無理もないのかな。『ショート・カッツ』とか『ウェディング』とか好きだったなー、
あわせて合掌。今日はおくやみにて失礼。


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