『プラダを着た悪魔』

メリルの囁くようなおなじみトーン炸裂

 結論からいうと、「可もなく不可もなく」この一語に尽きますね。あっははは職業放棄だよなこんな感想、でも思い返してみるとこの言葉しか浮かんでこないんだもの、仕方ないよなあ。いや、けなしてるんじゃないんです。「デートムービー」としたら結構な及第点だと思う。


 話は逸れちゃうんだけど、ちょっとここで私が指すところの「デートムービー」って意味合いを説明してみたい。育ちも価値観も違う二人の人間が、どこか惹かれあって結びついた状態であるところの“カップル”。ある一点では非常に理解し合える部分があるからこそカップルなんだが、その他では決定的に考え方が違うところもあるわけだ。その辺のバランスをうまくとって、折り合いをつけながら最終的に磐石な人間関係を築き上げるのが、理想的な「カップル・すごろく」の進め方ってもんだろう。カップルによっては、不幸にして最初の付き合いたての頃に、お互いの合わないところばーっかり見ちゃったりして別れる人達もいれば、あとになって「○○に関してはこんなセンスだったのね……」と知ってガックリきても、「でもまあ、とってもいいところもあるわけだし、我慢もしなきゃね」とポジティブに考えられるラッキーな進み具合のカップルもいるわけだ。
カップルが映画を観にいく、というのはとりもなおさず「思い出づくり」に他ならない。「今日のデートは無為ではなかった」という証明を与えてくれるものなんだよね。(もちろんただ見つめ合っていれば喫茶店だろうと原っぱだろうと楽しいデート、というのもあるにはあるけれど)

 デートで映画をハズす……これほど痛いものもない。2時間ぐらい座りっぱなしの顛末が「ケツが痛いだけ」という結果では目も当てられず、テンション下がりまくること必至! そして何よりも「楽しくないデートを一回してしまった」という結果が歴史に残ってしまうのだ。これはカップル存続において結構な「負の遺産」じゃあないだろうか。そう……こういうマイナス因子っていざケンカだの不満が爆発したときに「思い出し怒り」の原動力になりがちなんだよね。「そういえばあのときだってつまらない映画なんて観ちゃったわ……大体あの人ってリサーチ不足っていうか趣味悪いのよッ!」なーんて坊主憎けりゃ袈裟まで憎いネガティブ状態を生み出すもとなんだもの。
ゆえにデートの場合は「保険性の高い映画」が重宝されるのだ。「面白い」という価値観ほど脆くてアテにならないものはない。映画評やら芸術論というものはひとこと、「人それぞれじゃん」と言われたら元も子もないような世界なのだ。つまりは「デートムービー」っちゅうものは、実は「つまらなくはない映画」というのが語彙としての正しい意味なんだよなあ。そう、幅広く誰でも「まあいいんじゃあない?」思えるような優しい笑い(「うっかり父さん」とか「ちゃっかり母さん」とか「おしゃまな子供」とか「ドジなペット」とかそーいう世界ね。毒気とかエッジがきいた笑いとの対極にあるものだ)、これですね。もしくは努力する者は救われる、正直者は最終的に認められる、などといった古典的起承転結もデートムービーとして適している。すべてが予定調和で破綻がなく、主人公は死なずラストはハッピーエンド、といった話は決して観終わった後に「議論」を産まないものだ。逆説的にいうと『ミリオンダラー・ベイビー』とか『ブロークバック・マウンテン』のような「ラストどう思う?」みたいな議論を呼ぶ映画こそデートムービーとして最悪のチョイスなんだよね。このへんの映画ってのは「恋愛観・人生観・死生観」のような、人間の根幹を成すような思想が含まれる作品だもの、そんなのをデートで鑑賞するなんて大バクチに他ならない。終わった後で「どう思った……?」なーんて話になって意見が食い違ったりすると、それすなわち恋愛壊滅の危機といってもオーバーじゃあないぞ。(たまーにいるが恋人が一方の「グル(尊師)」の場合は除く。「彼(彼女)ってホントにサイコー! マンセー!!」みたいな関係性の場合は難解な映画でも素晴らしいデートムービーになりえるだろう。もう喜んで片方の話聞いて益々愛情の度を深めるだろうしね)


 で。結局何が言いたかったかといえばこの『プラダを来た悪魔』は素晴らしいデートムービーじゃあないか、ということだ。「女の子」が喜びそうなアイテムが素晴らしく散りばめられていて感心することこの上ない。ゴージャスなファッション、業界の裏側、ニューヨーク、パリ、綺麗に変身する魔法、変身させてくれる男、社交界、仕事が認められていく喜び、ケンカしても戻ってきてくれる自分を理解してくれる男、そして最終的にすべてをゲットする女……まるで昭和50年代前半の細川千栄子の漫画のような世界、ハレルヤ! 
すべてのテーマが掘り下げられることなく、その「香り」だけがいろいろ楽しめるなんて素敵! 私はこの映画を観ていて、すっごく美味いもんが陳列されているデパ地下をで試食しまくっているような気分になったんだよなあ。そして男にとっても最高のデートムービーだと思う。この映画に散りばめられているテーマのどこかに引っかからない女ってのはそうそういるもんじゃない。(もし「こんな甘いもんじゃないっつーのッ!」と突っ込める女は、最早社会的な意味での「男」ですね、自分でグイグイ稼いでソーシャル・サーフィンで切る女だ)「うわあ素敵」と喜んでいる女の子、そしてそれを見て「満足してるみたいだなあ、よかったあ」と喜べる男子……うーん完璧な均衡!
なんだかクドクド書いてしまったけれど、これが私のこの作品に対するすべての気持ちだ。原作も読んだが、この映画は原作の持つ「ドタバタ」の部分しか移し取れていなかったと思う。しかしながらそれは商業的に、非常に見事な選択なんだよなあ、プロデューサーに拍手。


○追記
アン・ハサウェイをこますザッツ・都会的売れっ子コラムニスト役のサイモン・ベイカー、どっかで見た顔だと思ったら「L.A.コンフィデンシャル」で殺されちゃう俳優の卵の役だった! 最初に大麻で捕まり、囮捜査に協力して殺されちゃう可哀想な役。でも今のほうがカッコよかった、いい年の取り方をしたんだなあ。


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