『愛の流刑地』その2

密着感……

 ゴールデン・グローブ外国語賞を『硫黄島からの手紙』が獲得、なんだか嬉しいですね。この映画と『父親たちの星条旗』は本当に心打たれる映画だった。まとめて何らかの文章にしたいな、と思いつついたづらに時間ばかり経ってしまって……情けない。と、思いつつも今日は昨日の残り、『愛ルケ』の雑記を書き散らしてみます。全体像は昨日のとおりだが、キャストについてちょっと触れておきたいので。ではどうぞ、よろしく。


■■『愛の流刑地』俳優たちのこと■■


寺島しのぶ
 日本映画史が誇る名女優の高峰秀子が言っていたことだけど、「熱演」というのは見苦しいものだ。厳しいことをいうようだが、彼女の演技はまさにそういった類いのものだったと思う。
 「熱演」という言葉は、「自分」が一生懸命やっているだけで、「鑑賞者」にとっては何にも関係ないことなのだ。そして熱演というのは「演技の成果」とは関係なく「演技の過程」において一生懸命なだけで、ひどくナルシスティックでセルフィッシュなものだと思う。ゆえに演技評価とは切り離して考えるべきなのだ。
 しかし世の中ってのは不思議なことに、「一生懸命やっている」ということを評価のポイントとして重んじるタイプの人が、結構いる。髪を振り乱して、あられもない姿をいとわず、女の情念とか奔放さとかを「体当たり」で演じぬく、そんな姿を見て「女優根性ここにあり」だの「女優魂」だのといったいかめしい言葉で飾り、褒める。
 そういう演技ってのはひとことでいうと、野暮ったいものなのだ。「一生懸命やってるんだから笑うな」みたいな意見、よく聞かれるものでしょう。それは言い換えると「ジェントルマン精神」なのかもしれない。それも分からなくはない。しかし、それは相手を下に見た、甘やかしの言葉であって無責任なものだと私は思う。ゆえにハッキリ言わせてもらうが、寺島しのぶ演じた冬香という女はまったくもって魅力的な女でも、恐ろしい情念の女にも思えなかった。
 この女優はそのシーン、シーンにおける「パッション」に全力疾走でぶつかっていく。ひとつひとつのシーンは魅力的なクリップにはなっているのだけれど、全体を通して、ひとりの存在感ある人間を構築するには至らなかった。その理由はひとつ、この作品を(変な表現だが)「文芸娯楽作」と割り切っちゃって役に徹するか、もしくは完全に冬香という女を「男にとっての都合のいい夢の女」として考えちゃうか、どちらかにすっぱりと徹するべきだったんだと思うんだよね。この作品はそこで既にブレてるなあ、と私には感じられた。
 寺島しのぶの失敗は冬香に「自我」というものを持たせようとしたところにあると思う。冬香という人間に自我など持てようはずがないんだもの、男の「女はこうあってほしいなあ」という最大公約数的な願望の塊なんだからね。まあしかしそれはすべて、許した監督の責任なのだ。


豊川悦司
 クライマックスといえる法廷の結審前にけるシーン、そこでのこの役者の決め台詞は素晴らしかった。セリフの立たせ方、啓示を受けたかのような言い切りに思わず「見事!」と唸ってしまいましたね。ここで終われば良かったのになあ……その後の刑務所で手紙を読むシーン、そしておわら節幻想模様は完全に私には蛇足に思えてしまった……。この人の役と役者の間にある不思議な距離感ってなんなんでしょうね。私はひょっとしてこの役者は「芝居なんてくっだらねえなあ」と思ってるんじゃかなろうか。うーん、いつもどこか思いっきり冷めているような突き放したものを感じてしまう。それはけなしているのではない。


富司純子
本作のベストキャスト。にじみ出る情感、蓄積された人間の歴史を感じさせる表情、素晴らしい。特に娘を殺した男をみるまなざしの素晴らしいことといったら! 役の情念をキチンと入れつつ、芝居として見せる上での形、やり過ぎず引き過ぎない感情表現(ここが娘は一番足りない)……『犬神家の一族』と合わせて助演女優賞はこの人で決まり!(と思っていたら、もうすぐ公開される『魂萌え!』の加藤治子も素晴らしい演技だった……どっちかなあ)しかし同時期に実の息子と娘と、それぞれ違う作品で親子役やってるっちゅうのも珍しいだろうな。


長谷川京子
はい、ごめんなさい最初に言っておきますがハセキョー・ファンは読まないで。警告したからね!
 はっきり書くが本作の最大のミスキャスト。この女優を見てる間私はずーーーーーーーーーーーーっと「百年早い……百年早い……」と呪詛のように呟いてしまいましたね、あーーーーーもう! いったいどんなパワーバランスでこの役をこの女優が……ッ! 大体この人が「検事」をやるっていう設定からこの映画をギャグにしている一助ってなもんでしょう、かつてドラマで長島一茂が医者をやったときと同様のめまいが……。悪いけど法廷用語駆使したセリフをサラッと言えないような役者にかける情なんてないモンねー。男を誘うような上目遣い、相手を挑発させるような物言い……ただひとこと、百年早い。


●なんで出たの、あなたたち
映画ってのはホンの端役でも贅沢なキャスティングを配すことが多く、それがたまらない魅力に思えることもあれば、「よっぽどヒマなんじゃねえか」といぶかしんでしまうような「あちゃー」キャスティングもある。この映画だとなんとひとことのセリフもないような役に「阿藤快」が出ていた。なんのために……そんな役どころを一挙羅列。
仲村トオルこのひとじゃなくても……的役筆頭。しかしエリートと言うか良きパパがすっかり板についてきましたねえ……元々ビーバップなのに。帰ってきたビーバップとかやってくれないかな、宮崎ますみさんも一緒に。浅田美代子よかった。この人の顔のおける造作バランスって、ミロの抽象画クラス的にドラマティックな配置なのに、なぜか魅力的に見えるから不思議。貫地谷しほりオッサンが夢描くところの「理想的な娘」を好演。ツボを得た演技で優等生的。本田博太郎裁判官の役……ソツなくこなすが、この人の本領は「ろくでなし」にあるのになあ。やさぐれた男の情感を出させるとヒジョーにうまいんだから。松本清張作『一年半待て』で見せた暴力亭主みたいな役をまた見たい。陣内孝則どうしてこの人はセリフ言わない間が一番うるさいのだろう。黙っているその口から「さあ次のセリフ言うぞ言うぞやったるぞ!」黙っているその顔から「さぁー行くぜ俺の演技だビシッと決めちゃうもんね頑張るぞー!」という浮かれにも似た空気がビンビン漂ってきて困る。佐藤浩一>嫌な刑事を見事に決めるが、私はこの人がいろいろな映画に出てくるたびに「こんなカッコいい○○なんていないっつうの」と身もふたもない言葉が出てきて困ってしまう。ていうか……あんなヘアスタイルの刑事っているんだろうか……。カッコよ過ぎるだろう。そういう点でいきなり例えは古くなるが、佐田啓二ってのはすごい役者だったのだなあ。その現実離れした整った容貌ながら、映画『甘い汗』で演じたチンピラ崩れのペテン師など絶妙だったもの。佐々木蔵之介私……すっごい失礼なんですがこの人見るたびに「脱皮しそう」「首伸びてキリンになりそう」とかいつも思ってしまう。はい、失礼しました。演技に関しては特に何もありません。これが一番失礼。余貴美子「含みのある女」これやらせたら日本一の貴美子姐さんですが、この作品でも文壇バーのままに扮して「女の悦び」について端的にトヨエツにレクチャーしてます。なぜか「ありがたい」という言葉が胸中に……。津川雅彦ひとこと、「太って老けて兄ちゃんに似てきたなあ」はい、ありがとうございました。


参考資料:最近のBros
 


弟:ちょっと目の下あたりが「岡田茉莉子」入ってきました。
兄:「昔はサザンの桑田に似てたんだぜ」は持ちネタ
そして兄の嫁が南田洋子、弟の嫁が朝丘雪路、なんとも濃い一家だ。真由子もわすれてはいけない。


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