『魂萌え!』(1/28改稿)

みんななかよし

魂萌え!
監督:阪本順治 出演:風吹ジュン三田佳子加藤治子常磐貴子ほか。
1月27日よりシネカノン有楽町ほかにてロードショー
公式ホームページ:http://www.tamamoe.com/


<ちょっと今日は真面目に……>
 この映画のまず第一の価値というのは、久々に「女性映画」というものを思い出させてくれた、というところだと思う。主人公は中年の主婦で、定年を迎えた亭主が死ぬと女の影が浮かび上がってくる。長男は好き勝手に自分の生活だけを主張し、娘も優しいことは優しいが、頼れる存在ではない。友人もいるし、そこそこお金もあるにはあるが、どうやってこれから、何を生きがいにしてゆけばいいのだろう……。
 と、いうごくごくありがちな話なのだ、この映画は。そこをどう「みせる」か。
それはひとえに「感情の密度」ということに賭けるしかないと私は思う。ありきたりな、今までに何度も映画化されてきたような「人間模様」をメインテーマにするときは、出演者の演技、ほとばしる情感がすべてなんじゃなかろうか。
 日常のフッとした瞬間に生まれる、誰しもの心に浮かぶ修羅、どこまでも落ちていくかのような絶望、爆発してしまう感情、抑えられない屈辱……そんなドラマティックな一瞬というのは、人生でそう多くはないけれど、誰だって折々感じて、体験して大きくなってきているものなんだもの。そんな「一瞬」を、リアルな感情とナチュラルな演技をもって役者がフィルムに焼き付けられるか、そこが、ありがちな話を「ドラマ」にできるかどうかのキモだと思う。
 逆に言うと、そういった演技こそが、観客の人生に生まれたであろう様々な「一瞬」を思い出させ、オーバーラップさせてるんだよなあ。簡単な言葉でいうなら共感とか感動、といったエモーションを生むんだと思う。もちろん一番大事なのは、そういった演技を大事にするかどうか、という監督のセンスなのだけれど。(蛇足だけど、小津安二郎成瀬巳喜男エバーグリーンなのってそういうことだと思う)
 そういった感情密度の点でこの映画、中々のことやってました、あっははは偉そうだな俺。いやーでもこの手の映画を久々に見たので点も甘いかもしれない。でもねえ、主人公が60歳ぐらいの役って映画も久々でしょう。風吹はじめ熟練の役者たちの演技をたっぷり堪能できたのも嬉しかったなあ。最近の新作などでは、登場する中で一番のベテラン役者でも、私の親よりも年下というようなことも多かったからなあ……。あまりに日本映画は老いというものに対して禁忌と考えすぎる。老人は双子で百歳ぐらいまで生きないと脚光を浴びないような国じゃ、あまりに幼稚だと思うけどねえ。


●蛇足としてキャストについて
 風吹ジュン(本妻)、三田佳子(妾)の二度にわたるバトル……妾としての積年の悔しさ、耐え難い屈辱を昨日今日知った本妻のショック。そういった難しい感情を短いシーンで巧みに、そしてやりすぎず抑え過ぎない表現で見せてくる。この二人のぶつかり合いが、映画のヤマ場となりいい緩急をつけていた。風吹は宣伝で「徹子の部屋」にも出演、実年齢が信じられないほどの美貌とコケティッシュな感じ、「女優さんだなあ!」と思わせてくれる数少ない一貴重な人だ。映画のVTRが流れるや「これ老けメイクなんです」と即座に語るところも女優(笑)。
 vs 
 ちょっと典型的、類型的に過ぎるかなあ、というような日陰の女の業、嫌らしさを本妻にぶつける三田佳子。しかしながら本妻しらなかった夫の体の不調を「あたしはずっと前から気づいてたのよ……」と嫌味をいうシーンの凄絶さはこの人ならでは。『Wの悲劇』『序の舞』などもそうだが「脇でさらう役」ってのがこの人ハマるんだよね。


 芸達者な人々の脇のおさえも見事! 特筆すべきは加藤治子、とってつもなく非日常なキャラクターながら、どこか「こんな人いるのかもなあ」というリアリティがあって、その老獪な演技は流石というほかない。そして風吹ジュンの友人役で出ていた由紀さおりのサラッとした巧さは相変わらず。すっごい昔にNHK朝の連続テレビ小説で「チョッちゃん」というのがあったが、そのときの母親役も素敵な名演だった。この人の演技がもっと観たい! 蛇足だけど今陽子と由紀、そして藤田弓子が風吹の同級生で元合唱部員という設定なんだが、ホームパーティみたいなとこで一緒に歌うシーンがあるんですよ。まあそれが素人離れして上手いのなんのって(笑)。ほとんど由紀さおり今陽子の声しか聞こえないんだけど。「あんたたち結婚しないで歌手なれば」ってなぐらい歌う歌う! 響くビブラートに伸びる声!! 「負けないわよっ!」「あたしのほうがウマいのよっ!」という声にならない声が聞こえたのは私だけでしょうか。私だけだ。あと「浅田美代子なんか問題じゃないぐらいドヘタクソだった」と今でも伝説のように語り継がれる風吹ジュン、ほとんど歌ってませんでした。やっぱり。
 それから林隆三さん、風吹ジュンをいきなりナンパしてホテルのバーに誘い「部屋とろうか」なんて甘く語る漫画みたいな役(はっきりいって弘兼憲史のそれだ)だったけど、よくやりましたね損な役だ。ここ完全にコミック的展開でしたが狙ってるんでしょうか……多分違うんだろうけど。主人公の主婦が軽率、といえるようなテンションで知り合ったばかりの男と寝てしまう、というこの場面だけが説得力のないものだった。ベッドシーンは思い切ってカットしてもよかったんじゃなかろうか。思いっきり古い言葉で書くが、モーションかけられる、ということだけでも自信回復には繋がるだろうし、ラストにも影響ないと私は思う。
 と、ダラダラ描きましたが結構この映画気に入ってます。最近映画観てないなあ、という50代以上の女性の方に観てほしい作品だ。ラストが甘すぎる、というきらいがあるかもしれないが、ご愛嬌として夢のあるラストも私は気に入った。


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