最近の映画から 2

スキャンダルだけで20年

 こないだ友人と話していて笑ったのだけれど、『愛の流刑地』の主演は石原真理子さんがやれば適任だったんじゃないでしょうか。いきなり桜舞い散る雨の中踊りだしたり、感極まって「殺して、殺して!」と叫びだしたりしても「ああ……なんとなく納得!」と抜群の説得力が生まれる気がする。そう、すべての辻褄がいきなり合う感じ。そしてもちろんセックス中に熱情のあまり殺しをやっちゃう男は玉置某にお願いしなきゃね。うーん……完璧なキャスティングじゃないだろうか! なーどと怒られそうなことばかり言っててもしょうがない、さて昨日能続き、映画のメモ記録です。

〇『パフューム』

パトリック・ジュースキント著、池内紀さんが訳された原作は日本でも結構話題になった。「鼻」(ね)と呼ばれる天才的調香師(香水などのブレンドをする人、といったら分かりやすいだろうか)のお話で、舞台は18世紀のパリ。「美しい人間の香りを香水に閉じ込めたい」と願う男がその目的達成のために連続殺人を犯す……ってなストーリーだったのだけれど、この作品に関思ったことは3つ。まず最初に、こんなに気持ち悪いオープニングもそうそうあるものではない、これですね。私直視できないシーンが何点も。「ほーら気分悪いだろう!」とわざと気持ち悪いものをこれでもかと見せ付けてくるんだよなあ、腐ったはらわたを顔に投げつけられたかのよう。『エル・トポ』のフリークスのシーンなんかは監督がそれをまったくユージュアルなものとして描いているので何とも思わなかったが、この作品は主人公の呪われた運命を暗示させるために魚の臓物、うごめく無数のウジ虫、不潔な映像をこれでもかと描き続けるのだ。うーん悪趣味! とか思ってたらいきなり笑わせてくれますよ……天才的なその「鼻」のすごさ、これがもう漫画としかいいようがない。はっきり言うが笑える。だってお目当ての美女が何マイル離れたところに逃げても、かすかな残り香をたよりに居所探り当てちゃうんだもの、見つけちゃうの。ほとんど犬ね。どんな離れたところに捨てても戻ってきちゃう犬の物語など思い出すなあ。そしてラスト、彼が殺人に殺人をかさねたあげくに作り出したこの世のものとは思えないかぐわしき「香水」、それを嗅いだとき人はどうなるか……。不肖31歳ライター白央篤司ですが、こんなに唖然としたのはここ4年はありません! すごい……すご過ぎる。このシーンだけで「うん、とにもかくにもビックラこいた」そう思えた。これは詳しくは書けないけど一見の価値はあるだろう。
3月3日全国ロードショー。


〇『素粒子

ドイツ映画。4人の男女のすれ違う気持ち、何を自分は求めているのか、どうしたいのか、煮え切らない気持ちと表現できない希望、そんなことがつづれ織りに描かれていく。現代の苦悩と病理、みたいなありきたりの言葉でつづられちゃいそうな映画だけど、テーマうんぬんではなく私は演技者達の濃密な芝居、感情のほとばしりみたいなものを堪能した。『ラン・ローラ・ラン』のボーイフレンド役、モーリッツ・ブライプトロイベルリン国際映画祭最優秀主演賞をこれで受賞、それも納得のいい芝居。悔恨、という感情がブワーッと体中に溢れてくる表情演技が素晴らしい。性の欲求、性の解放、人間的な愛情という問題を考えながら主人公はヌーディスト村やら乱交クラブをさまよい、精神科に行ったりしつつ、やっと出会えた愛する人は半身不随になり……という「修羅」としかいいようのない精神のギリギリのところをさまよい続ける。そして彼が最後にたどりついた境地は――私にはとてつもない悲劇に思えた。なのに漂う柔らかく天国的なニュアンス……人の安穏というのは本当にわからないものだ。
3月、ユーロスペースにて。


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