『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

リンジーが最高に可愛い!

ロバート・アルトマン遺作 『今宵、フィッツジェラルド劇場で
監督:ロバート・アルトマン 出演:メリル・ストリープ、リリー・トムリン、リンジー・ローハン、ケヴィン、クライン、ウディ・ハレルソントミー・リー・ジョーンズヴァージニア・マドセンほか
公式HP http://www.koyoi-movie.com/ 3月3日より全国公開


 ロバート・アルトマンという監督は映画の中に漂う「空気づくり」、これに何よりも長けた人だった。よく言われることだが、この監督の描き出す世界というのは実に多彩。西部劇、ミステリー、ファッション業界、ハリウッド内幕もの、貴族世界……実に様々な舞台において、まるで監督自身がその世界で長年育ったかのような、ナチュラルな「空気」をフィルムの中に満ち溢れさせる名人だった。


 役者の演技やドラマの盛り上がりで魅せる映画は星の数ほどあれど、ただ淡々と流れる作品の「ニュアンス」だけで観る者を納得させてしまう作品はそうそうない。アルトマンのそれは、いつでもその業界、時代の空気を濃厚に漂わせつつ、いつしか観客はドラマの中に引きずり込まれていくのだ。
 テーマとなる舞台独得の風習や常識が交差する中で、いろんな人々の思いやアクションが錯綜する。だんだんと観ているうち、私たち観客は「へぇ〜そんな世界なんあ、ハリウッドって」「パリのコレクションってこんなことがまかりとおってるんだー」などと大人の社会見学よろしくあんぐりと口を開け、アルトマンが用意しているちょっとしたストーリーの中に導かれ、気がつけば自分も作中人物のような気持ちになってしまう。


 本作も遺作でありながら、ちっとも衰えを感じさせないアルトマン調が存分に楽しめた佳作になっている。カントリー音楽のラジオ公開録音がずーっと行われているミネソタ州フィッツジェラルド劇場、今夜はそのクロージング・ナイト。年十年も街の人々に親しまれた劇場が取り壊されることになったのだ。歌手、司会、バンド、裏方、ボディガード……様々なキャストの思いとこころが描かれていく。
 アルトマン作品ってのは主役は一応決まっているんだけど、いろんな出演者のアンサンブル演技が無数に構成されて一本のドラマに仕上がるつくりになっている(そーいうやり方をアルトマネスクと呼ぶようだ)、ナチュラルなやり取りが続く中、気がつけば観る人は自分の性格にあった「誰か」の気持ちに自己投影しちゃうんだなあ。
 この作品だと表方タイプ(人前で何かやるのが得手な人)は歌手や司会者の気持ちに、裏方タイプの人はタイムキーパーやセキュリティの気持ちになりながら、いつしか自分もこの劇場のスタッフの一員になっているような、そんな……ある種「気持ちいい」錯覚を起こさせてくれる作品だ。アルトマンの作品にはいつもそんなところがある。
 もうこの手の「トリップ」も次は観れない。でもたくさんの素敵なフィルムが遺されている。ありがとうございました、アルトマン監督。お疲れ様でした。



●お知らせ
ブログランキングに登録。 どうか1日1クリック↓してやってください。
http://blog.with2.net/link.php?198815
ご意見などはこちら→hakuo-a@hotmail.co.jp