映画『サン・ジャックへの道』

ラストも好きだ!

監督:コリーヌ・セロー(『赤ちゃんに乾杯』) 出演:ミュリエル・ロバン、アルチュス・ド・パンゲルン、ジャン=ピエール・ダルッサンほか。オススメ! 公式HP:http://www.saintjacques.jp/


 「巡礼」―――日本人にとってはちょっと馴染みのない言葉だ。ややもすると敬遠しちゃうようなイメージじゃなかろうか。熱心な教徒のみが行う儀式のような……そんなイメージを私も抱いていたが、この映画を観てからガラリと認識変わっちゃいましたね。そんな「巡礼」が物語の主軸、となる映画です。

 「1500キロの巡礼を3人で一緒に歩くこと」――これこそが、仲の悪い3兄弟に課せられた遺産相続の条件。ワガママでイヤミな金持ちの兄、毒舌でケンカっ早い姉、アル中で文無しの弟……顔を見ればいがみ合う3人がフランスからスペインのサン・ジャック(スペイン語だとサン・ディエゴ)まで歩く、ひたすら歩き続ける。なんとこの巡礼は2ヵ月もかかるのだ!
 いきなり話は逸れるようだが、たいして宗教的意味もなく「巡礼」に参加する人って多いみたいなんだよね。うん、日本の「お遍路さん」のそれとあまり変わらないよう。あれも(カッコはすごいけど)純粋に仏教に傾倒したから挑戦してる人、って割と少なそうだしね(「みそぎ」で参加された民主党の某政治家のように)。作品中では若い参加者多くて驚かされてしまった。そう、お遍路さんよりライトに、富士山に登ってみるようなチャレンジ・ゲームの一種なのかもしれない。
 もう物語りは「ひたすら歩く」、それに終始する。雨の日も風の日も。やがて携帯が通じないような山道になり、遠慮も見栄もへったくれもないほどに疲れてくたびれて、そしてまたひたすら歩く……目の前には、ただ美しき山と雲。うーん「蟻の道 雲の峰より 続きけん」なんて芭蕉の句が自然頭に浮かぶ。
 そう、都会では教養やらお金やら有象無象のものを持ちプライドもある大人たちが、問答無用で「蟻」と同じ存在になっちゃうんだよね、こーいう旅って。そこで何が起こるか?
「なんでこんなことを……」「ちっくしょう帰りてえなあ……」ドス黒くうずめく3兄弟の腹の内。
 望んでしてる旅じゃないのだ。遺産欲しさにはじめたこと。しかも巡礼だからホテルに泊まる訳じゃない。山小屋や教会で雨風しのぐだけの夜もある。昼はひたすら坂を登り山を下る。この繰り返しが、最初は不満炸裂の都会人3兄弟の考え方を、いつしかネガティブからポジティヴ思考に変えていく。無いことから在るもの、手にしているものを知っていく。
「泊まれるところがあった、やったー!」「水、うめーっ!」「メシにありつけただけ儲けモン!」
 こう書くとありきたりな自然賛歌ムービーに思えるかもしれない。けれどコリーヌ・セローは「ほーら自然っていいでしょ、都会ってなんて無駄が多いか分かったでしょ!」的な芸のないエコロジストみたいなダサいことはしないのでご安心を。主人公たちが「巡礼」という荒行を通じて手にする「美しいこころ」(この言葉も結構ダサいが)――それに観客として触れられたのはヒジョーに気持ちよく、嬉しいことだった。3月シネスイッチ銀座ほかでロードショー。
 アラブ系の少年、高校生ぐらいのフランス人少女達など国籍や年代も様々なクルーで旅する2ヶ月。これがまたいいドラマを生む。


●追記
この監督は別に「巡礼」の持つ宗教的意味にはまったく興味がないんだと思う。ただ自然の中で人間が歩く、というその一点のみに興味を持ち、そこで何が起きるかということを描きたかったんだろうなあ。と、ここで一応確認のためプレスを見たが私の思ったとおりのようです。


●付記
先日「はじけるお菓子」という題で、名前も思い出せない昔あったお菓子のことを書いたら調べて教えてくれた方がありました。(参照:http://d.hatena.ne.jp/hakuouatsushi/20070216)その名も「ドンパッチ」、ああ……懐かしいなあ。そうそうこんなパッケージでした。妙に郷愁をかきたてます。
 


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