三月大歌舞伎・「菊五郎礼賛」

ブッチー武者じゃありません

 先日ニュースをつけっぱなしにしてたら突然「ブルセラ症が……」という単語が聞こえてきて驚いてしまった。女性下着が大好きな偏執狂のことかと思ったらさにあらず、家畜伝染病の名前なのだとか。ブルースさんが発見したことからこの名がついたようで、人間にも感染するのだとか。「あの人、ひどいブルセラ症らしいのよ」「ブルセラが高じて入院しちゃうなんて珍しいわねえ」などという会話が世間のどこかでなされているのかと思うと、ちょっと楽しい。今日は先日の歌舞伎感想、通し狂言義経千本桜」の小金吾討死より。


■■3月12日(月) 歌舞伎座・夜の部「通し狂言義経千本桜」
 6日だかに娘の寺島しのぶが結婚会見を開き、音羽屋(しのぶの父・尾上菊五郎の屋号)祝福ムードの中賑わう場内、実際にローラン氏と仲睦まじく寄り添う寺島しのぶの姿も場内に。富司純子も入り口でご挨拶に立ち、それは綺麗な姿だった。


〇「木の実・小金吾討死」
 小金吾は中村扇雀。11年ぐらい生きた猫の首を甘絞めしたらこんな声じゃないか、という口跡。東蔵仁左衛門によって漂う古典歌舞伎の味がこの人のセリフによってことごとく消える。立ちまわりはかなり善戦していると思うが「本身」の重さが感じられず、空事に過ぎる。からみのとんぼはみな軽く見事だが、アクロバティックでストリートダンス的な身軽さが歌舞伎の味にそぐわない。とんぼをきるさいの独得な重心の低さとキレ、これが見たい。


〇「すし屋」
 いろいろ感じるところはあるが、何よりも権太演じる片岡仁左衛門の驚異的な「足の色気」、その若さに驚く。1944年生まれというから今年63歳、信じられない。もちろんただ線が若いとか肌がどうこうというのじゃない。足を出したその立ち姿からにじみ出る役者ぶりと風情、そんな目に見えないものの若々しい「香り」のようなものに、私は唸った。
それにしてもどーしてこの役者はズルいダメ男をやらせたら天下一品なのだろう。女の母性を刺激して「ほっとけないわ!」と思わせるフェロモンを神から余分に貰っているとしか思えない。若成田がこーいうふうに育ってほしいなあ。
 その他諸々列記。お里の孝太郎、いつ見ても「頑張っているのにねえ」としか思えない。こんなに顔(歌舞伎用語でメイクのこと)が上手くならない役者も魁春とこの人ぐらいじゃないだろうか。小せんの秀太郎は相変わらず達者、後姿の線の若妻らしい色っぽさなど、着付けを研究しつくしているのがよく分かる。弥助の時蔵、立ち姿の凛とした品のよさは役そのものだけれど、腰つきに女形がときにのぞくのが惜しい。
 
片岡仁左衛門:こういう陰影のある二枚目、というのは出てこないのだろうか。


〇「川連法眼館」
 私は……ひょっとして菊五郎が好きなんじゃないだろうか。最近この役者に惹かれてしまう。そう、なんってったって豪放磊落な感じが好きなのだ。丸っきりイメージだけれど「狐忠信を演じられる際のお心がけとは?」なんて尋ねても、「別にないよ、んなもん!」「今までどーりやるだけさぁ」なーんてフザけてくれちゃいそう。うん、いかにも「役者」という感じの人を喰ったような面白さ、懐の深さを感じてしまう。
 歌舞伎役者に限らず、芸術論を語ったり「〇〇の宇宙」「演じることとは」などという学者に任せておけばいいようなことを述べる人が多いなか、菊五郎の天真爛漫なキャラクターはなんとも伸びやかで、粋だ。(もちろん自分なりの演技論は色々お持ちだと思うが)
 母恋しさに一途に鼓を思う狐忠信、その役柄と菊五郎がよくマッチしたいい舞台だった。
 
若かりし頃の尾上菊五郎。間違いなく歌舞伎界で造形的に一番美しい男役者だと思う。


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