女の【対決!】映画・第10回『残酷な記念日』(1963年)

女フックの風情

 私は強い女が好きだ。
 妄執の女、自我の強い女、いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。
 たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。いったいなんのために。 今日はその第10回!


※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思います。もしやってる方がいたら見てみてください。

「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


■『残酷な記念日』
監督:ロイ・ウォード・ベイカー 出演:ベティ・デイヴィス、エレン・テイラー、クリスチャン・ロバーツ、ほか
対決構図:母 vs 家族全員


<あらすじ>
 建設業で荒稼ぎのタガート一家、実権はすべて社長未亡人(ベティ)が握っている。
 つまりお金は全部彼女のもの。それゆえ実の息子3人も彼女には逆らえず、また本質的に全員ドマザコンなので言いなりとなって手足のように動かされている。一年に一度、亡きパパとママの結婚記念日を祝うべくせっせと準備する3人だが、それが人生最悪の一夜となろうとは露ほども知らないのであった……。


〇世界で一番後味の悪い映画
 この世で一番やっかいで手に負えない存在……それはなんだかお分かりでしょうか。ひとえに私の持論ですが、それは「歳とって金を持ってる女」、これですね。
 それも持ってる金のケタが増えりゃ増えるほど始末におえない。デヴィ夫人しかり、細木数子しかり、黒柳徹子しかり……様々な世界における「やりたい放題」という存在はまず間違いなくこの種の人々です。
 女はとにかく「枯れない存在」。どー見ても米寿はいってるのに、ピンク・ハウス的フリルファッションに身を包むご婦人なんかはそのいい例。「経済」と「周囲」が許せば、女性というのは本質的にエゴとエロスが常に右肩上がりな存在なのです。
 そう、そんな女性が主役で大暴れ、一家の長となって家族に恐怖政治を敷き、横暴の限りを尽くす映画が今日ご紹介する『残酷な記念日』です。大女優ベティ・デイヴィスの隠れた大珍作! 私も様々な映画を観てきましたが、この作品ほど後味の悪い映画もそうそうありません。ちょっと内容をご紹介。


●今日は記念日
 金持ちのタガート未亡人(ベティ)は年に一度、亡き夫を偲んでパーティを催します。
 出席するのは彼女の三人の子供とその奥さん。毎年未亡人のやりたい放題、みんなも「さわらぬ神にたたりなし」と「和田アキ子誕生日パーティにおける中小芸能人」のごとく借りてきた猫状態なのですが、なんと末の息子が勝手に婚約した相手・シャーリーを連れてきちゃったからさあ大変! ママはおかんむり、タガの外れたコブラのように毒を吐きだします。それも「お味噌汁からいわねえ」「高血圧なっちまうよ」程度の軽イヤミじゃありません。
「あなた、もうちょっと向こう座って。体臭がひどすぎるのよ」
 言っときますがこれは「ジャブ」です。


●一家はみんなキ〇ガイ
 こんな母親に育てられた子供がまともに育つわけありません。

長男:下着ドロボーで女装マニア。家族中が知ってる秘密だけど、誰も本気で心配してません。素晴らしい個人主義です。なんと末っ子の婚約者が眼を離したすきに、彼女の下着盗んで身につけます。婚約者にまんまと見つかっちゃうんですが、堂々と「この下着のブランドいいよね」。
 変態もここまでくればある意味立派。


次男:この映画のキモとなる男です。ある理由からママに一生逆らえない奴隷のような存在に。長男の下着ドロが発覚すると「罪かぶって」とママに命令され尻拭いをさせられたり。その「理由」とは……。


末っ子:ママを呪い、痛めつける空想に遊ぶのが大好きな方です。一番反抗的なようで、一番ママ大好き、典型的な末っ子の甘ったれですね。今回を含めて婚約者連れてくるの3回目ですが、ことごとくママにぶち壊されました。でもママのもとを去らない。母の愛って偉大ですね。


「こんなの変よ!」とブチ切れるシャーリー、当然です。
次男の嫁さんすかさずアドバイス「私だって毎度殺したいほどの憎しみに体が震えるのよ、」そんなこと言われる義母もたいしたものです。だけどみんな逆らったら財産がもらえなくなるから言い返せない……。


●侮辱の雨
「女の子の見掛けのことをからかう」
 小学校のとき、絶対してはいけないとよく諭されたものですね。しかし子供というのは残酷なもの。デブな子に「百貫デブ!」ちょっと個性的な容姿の子には「ドブス!」なんて平気で言う子がいたものです。
 シャーリーはうまれつき格闘家のような耳つきをしていました。綺麗なシャーリーはそのことを人一倍気にしていましたが、本当に可哀想なことに未亡人に発見されます。
「ギャハハハハハーッ!! こんな不気味な耳見たことないわ!!」
 そして「とうとう欠点をあらわしたわね、絶対結婚なんて認めないわよ」と続けます。よく暴力団が「おい兄ちゃん、誰に断ってここ歩いとんねん」などと訳の分からない理由でいちゃもんをつけてきますね、あれと一緒です。
 しかしシャーリーここで少しもひるまず!
「あたし妊娠してるんです、お腹の子はあなたの孫ですよ、その子まで認めてくださらないんですか」お義母さん少しもひるまず、
「そんな耳の孫ならいらないわ!」……読んでて嫌になってきたでしょう。私も書いてて嫌です。


 この人間として完全にイカれている女を演じるのは、『何がジェーンに起こったか?』のベティ・デイヴィス。ハリウッド映画史上にその名を残す大女優です。憎悪と悪態のかたまりみたいな女をここまで完璧に表現できるのはこの人だけ。この作品はひとえに彼女の怪演・狂演を堪能するためだけの映画です。
 よくヤクザさんなんかがパンチパーマにグラサン(サングラス、じゃなくグラサンね)などというオシャレアイテムを見つけてらっしゃいますが、その目的は「威嚇」に他なりません。ライオンのタテガミとかコブラのびろびろとかと同様ですね。
 ここでベティ先生はあろうことか「アイパッチ」をつけてらっしゃいます、ああ独眼流ベティ。しかもTPOに合わせて黒と赤をつけかえるファッショナブルぶり。ただでさえ怖い形相が何倍にも増幅されています。そしてこのアイパッチに秘められた、この家の呪われた歴史が明かされるところはまさにクライマックス! あなたはここで「後味悪い」という言葉の本当の意味を知るのです。


 この女優は“妄執”という人間の複雑怪奇なこころを演じるために生まれてきた、そういっても過言ではないでしょう。残酷なる女王・エリザベス一世を演じきった『ヴァージン・クイーン』、従順を装いつつ、冷酷非情な裏の顔で子供に手をかける住み込みメイドを演じた『妖婆の家』など、彼女の初DVD化作品が次々と最近リリースされているのも嬉しいところ。驕慢、放埓、因循、キワモノ……そんなワードにピンと来る方、ベティの作品は必見ですよ!


(「CDジャーナル」2007年3月号「ヒロポン映画劇場」に掲載されたテキストに大幅加筆して製作しました)