和久井冬麦というピアニスト

和久井冬麦

 4日、「とくダネ!」(フジ系)に出演した弱冠12歳のピアニストをご覧になった方も多いだろう。いやー私驚いてしまった。間違いなく天才少女だと思うが、テクニックや音楽性といったものよりも、このピアニストの「精神の熟達度」に何よりも驚く。
 神童、というのはそういうものなんだろうが、この少女の演奏はまぎれもなく「大人」のものだった。それはまず、技術的な面がひとつ。普通なら(この「普通」、というのが神童・天才の類いにはまったく意味のない尺度なのだけれど)1〜2年かかってチェルニーを終え、その次はソナチネを終えて……といった、テクニックの獲得のためにかかる期間は、だいたい決まっているものだ。それをこの12歳の少女はほぼ(プロ・ピアニストになる上での)最終訓練段階まで行っているのではないだろうか。ロマン派の超絶技巧を要する曲を聴いてないのでそんな判断は性急だろうけれど、到達は時間の問題のように伺えた。
 また、驚くべきは精神性。誤解を恐れずにいうと、「子供らしさ」のまったくない演奏だった。この日はモーツァルトソナタの何番だったか忘れてしまった)とショパンの遺作のワルツを演奏したが、特にモーツァルトの演奏の立派さは並みの大人が太刀打ちできるものではない。この作曲家の作品は美しすぎて、ひとつの(売り物になる)演奏としてまとめるのは群を抜いて労が要るものだと思う。しっかりとした構築力、全体のバランスを考える計算力がないと、しまらないものになりがちだし、あまり計算が過ぎても小さ過ぎ、つまらないものになりやすい。そのバランスが非常に良かった。モーツァルトらしい天国的な幸福感、伸びやかさ、そしてそこに遊び過ぎない構成力。この少女にとっては1時間が1ヶ月ぐらいの密度があるんじゃないだろうか! そのぐらいの勢いで音楽というものを習得している、ちょっとした空恐ろしさを感じた。(しかしまあ、ショパンのほうはさすがに若さがのぞき、この曲に必要なちょっと枯淡の境地というか、非常に美しかった人がすこし年増にさしかかったような時期の「艶」は望むべくもなかった。そんなことまで出来たら恐ろしすぎるが)
 大人になったとき、この少女はどんなピアニストになるのだろう。キーシンのようなプレッシャーとステップを必ず経験するだろうが、うまく乗り越えてほしい。


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