女の【対決!】映画・第11回『キャリー』(1976年)

これは別バージョン

 私は強い女が好きだ。妄執の女、自我の強い女、いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。
 たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。いったいなんのために。今日はその第11回! ※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思います。もしやってる方がいたら見てみてください。
「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


 昭和50年代前半――この時代は今思うに、ちょっと「イッちゃってた時代」に想われます。そう……ダークで、どこか禍々しいイメージに包まれた世界が、この頃を思うだに蘇るのです。
 例えばテレビ。昭和52年には「土曜ワイド劇場」がスタート、「江戸川乱歩の美女シリーズ」が人気を博します。ストーリーは必ずといっていいほど偏執狂の犯人が美女を監禁・陵辱するというもの。出てくるキャラは妾、捨て子に不具者、座敷牢に閉じ込められた痴れ者……そんなアウトローやマイノリティばかりです。淫靡で幻想的な世界がこれほどまでにお茶の間に流れた時代も珍しいのではないでしょうか。
 そして世間は「口裂け女」の噂に沸き、漫画ではつのだじろうによる「うしろの百太郎」「恐怖新聞」がヒット、日野日出志古賀新一などのホラー漫画家も人気を呼びました。映画では『犬神家の一族』『八つ墓村』とサスペンスホラーの傑作も生まれています。なんちゅう時代でしょう。そう、日本はこの頃どっぷり国民全体がで「オカルト漬け」だったといっても過言ではないのです。
 オカルティックなムードを盛り上げるかのように、町中によく恐い映画のポスターがベタベタ貼られていました。そう、今とは比べ物にならないほど2番館や3番館といった名画館も多かったのです。『犬神…』や『八つ墓』も日本らしい陰惨ムード漂ういいポスターでしたが、洋画はさらにショッキングで鮮烈、私は子供心に見るだけでトラウマだったものです。この頃だと『オーメン』『エクソシスト』『サスペリア』などホラーの傑作が立て続けに公開されてますが、中でも私が一番インパクトを感じたポスターがこの『キャリー』(写真参照)。頭から血を浴びた少女がこちらを見つめている……その異様さはこの時代の不吉の象徴といっても過言ではなく、これのせいで夜トイレに行けなくなったガキも多いのではないでしょうか。内気ないじめられっ子の女子高生・キャリーの悲劇を、かいつまんでご紹介してみます。


●壮絶なヤンキー娘のいじめ
やっぱり食い物が違います。球技でミスったキャリーにいきなり「YOU EAT SHIT!」とガタイのいい女・クリスが罵ります。直訳すると「クソでも喰らってな」ここは売春宿でも女刑務所でもなく普通の高校ですよ皆さん。さらにタイミングの悪いことにシャワールームでキャリー、なんと女の門出たる「初潮」が始まっちゃうのです!


●屈辱の雨
うぶなキャリー、生理のことなんてまったく知らずにきたもんだからもうパニック。そのキャリーをみんながどうしたか。
答え:「ギャーハハハハ!」と爆笑しながら「コレ使えよ!」とタンポンとナプキンをぶつけまくるのです! シャワーでずぶ濡れになりながら血を流しブースはタンポンで埋まる……止まぬ罵声と嘲笑。もう地獄絵図です。


●安息は家にもあらず
「うえーん」当然キャリー傷つきまくって帰ります。怖かったわ、と泣きつく娘にママ突然ブチ切れ、「生理は姦淫の罪を犯したイヴへの罰なのよッ!」そう、ママはキリスト狂信者。女になったキャリーを「てめえの信心が足りねえんだよ、祈れ!」いきなりキャリーを聖書でぶっ叩きます。「神に謝れ」と怒り狂うママ、泣き叫ぶキャリー。アメリカ映画史上に残るDVババアです。


●力の目覚め
フラストレーションがMAXに達するキャリー、当然です。しかしストレスが頂点に達すると、不思議な力を発揮することに気がつきました。キャリーは超能力者だったのです。物を動かしたり壊したり……。そう、いじめられっ子がこんな能力を持ったらどうなるか、もうみなさんお分かりですね。


●なぜそんなこと思いつく?
その後いじめが問題となり、首謀者のクリスはプロム(パーティ)参加禁止に。「すべてはキャリーのせいよ!」と怒りに燃えたクリス、なんと“豚の血を浴びせかける”という素っ頓狂な復讐を計画します。冗談にしか思えないでしょうが、本当に恋人に養豚場にもぐりこませ豚を撲殺、バケツに血を集めます。あなたがもし恋人にこんなこと頼まれたらどうしますか? ええ、病院に電話しますね。しかしクリスの彼氏はなぜかやってあげちゃいます……催眠術でも使ったのか……。


 不幸のどん底にいるキャリーを、いつしか応援したくなるような構成は見事という他ありません。気分悪いシーンの連続も、返ってキャリーにシンパシーを感じさせます。やがてささやかな幸せが彼女に訪れハッピーエンドに……んなわけありません。監督のデ・パルマは人間ドラマと共に、徹底的なショックを追及します。血の雨を浴びたキャリーは超能力を爆発させ、プロムは殺しのパーティに変貌。そう、最後の最後までこの映画は私達を決して安心させてくれませんよ。そして見終わった後も、思い出すだにゾッとするトラウマ決定のラストは最高! しかしなんといっても、やはり本当に怖いのは主演であるシシー・スペイセクのイっちゃった表情、これに他ならないんですけどね。


●この原稿は「CDジャーナル2007年5月号」(音楽出版社)の「ヒロポン映画劇場」に掲載されたものを加筆訂正したものです。