映画『インランド・エンパイア』

7月公開予定

※ちょっと最近ブログサボってましたが、3〜4日さかのぼってつけてみました。よかったらどうぞ。今日は映画の感想です。


■■『インランド・エンパイア』■■
 私が「映画」というものに求めるものはただひとつ。監督の「俺には世界がこう見える!」という「こころ」に遊びたい、それだけだ。ゆえに、私はデヴィッド・リンチを愛している。
 リンチの映画というのは、いつもどこか少し、ねじ曲がっている。彼の映画見始めると私は、誰かにポンッと軽く、不意に背中を押されて転んでしまったような気持ちになる。そして倒れたところはもう異世界。ズブズブとその「ねじ曲がり」に飲み込まれていく。その先はほとんどこの現世と一緒なのだけれど、どこも少し、歪んでいる。うねっている。なにか渦巻いている。それはSFの世界だと平行世界というようだが、「パラレルワールド」っていうものかもしれない。焦燥感、ぼんやりとした不安の持続する世界。
 朝起きてみると、ほとんど昨日までと一緒なのだけれど、どこか他人の家にいるような気がする。そのにおいさえも一緒なのに、お母さんがお母さんじゃないような気がする。毎日通っている道なのに、知らない場所のような……デジャ・ヴというのはあるが、知っているものが知らなく思える感覚というのは、殆ど人間は体験しないものだ。あれ……どうしたんだろう……帰宅してみれば違和感は益々強まる。うちじゃないよここ……でもどこも昨日までと違う箇所はない……あれ、お母さんはあんな色の靴下を持っていただろうか……。
 プールで楽しく遊んでいたら、知らないうち片隅に開いていた穴が渦を作っている。その渦を見つめていたら、穴がドンドン大きくなり、やがて渦が私を飲み込んでしまった……この映画は、そんな映画です。って、これじゃ訳分かりませんね。ここで引用したいのが「プレミア」誌の評。
「内容が分からなかったって? それが、リンチを理解したってことなんだぜ」
 小さい、小さい頃遊んだプールを思い出してみてほしい。夏の日、ただ水面に浮かんでいるときの愉しい気持ちや、排水溝に引き寄せられそうになったときの圧倒的な不安感……大いなる水のうねりに身を委ねる「浮遊感」こそが、リンチの幻想世界に遊ぶ真髄じゃないだろうか。リンチの幻想世界=オリジナルのイマジネーションという「水」でいっぱいになったプールに遊べる機会など、滅多にあるもんじゃない。『マルホランド・ドライブ』よりさらに深く、広いプールが出来てしまった。時間にして180分、リンチ好きの人なら必見だと思うが、慣れない人は泳ぎ疲れて、溺れてしまうかもしれない。泳いでみる?
 7月、恵比寿ガーデンシネマにて公開。HPはこちら http://www.inlandempire.jp/

 
蛇足:この作品には描いているリンチ自身がプールの中で楽しく泳ぎつつも、いきなり溺れたり、誰かに足を引っ張られてしまったりしているような……ちょっと本能的に恐ろしいところがある。本当に、フィルムという魔物に捕まってしまいそうになってるんじゃないだろうか。映画の中でさまようローラ・ダーンが私にはときにデヴィッド・リンチ自身に見えて仕方なかった。


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