「銀座並木座」 嵩元友子:著

装丁も素敵です☆

 テレビで聞いた嘘のような本当の話。「小松 輝」さんという方がいらっしゃるんですが、音にしてみると「こまつてる」。そう、よく「困ってる?」などと周囲にからかわれるのだそうです。それだけならオヤジギャグにもなりませんが、奥様の名前とセットにすると一気に「へぇ」度が増すんですねーもう冗談としか思えない。その名も「照代」……困ってるよ、いやホントなんだってんば。よくもまあ二人は結びつきあったものです。というノドカな前振りから珍しくはじめてみました。今日は本のご紹介。強力におススメ。気恥ずかしいですが私のセーシュンの思い出です。


 並木座―-この名前を聞くだけで私はもう胸がいっぱいだ! もしも、「あなたにとって青春とはなんだった?」と訊かれたら、私は迷わず「足繁く並木座に通っていたあの頃」と答える。麻薬的に映画を好きになっちゃった中学生時代、親に懇願しては当時住んでいた川越から有楽町までの電車賃、そして映画代を貰っては並木座に行った。毎週のようにそこでは、小津安二郎成瀬巳喜男などの巨匠からクレージーキャッツなど、日本映画の黄金時代の作品が特集上映されていた。

 古いビルの中にある小さいつくりの、大きな柱が右手にある劇場だった。柱が邪魔で見えにいポジションがあったり、おおよそ綺麗とはいえないような内装だった。でも、私はこの場所が好きだった。いい作品をかけている、ということだけじゃなくて、どこかとても、あたたかい場所だったから。
 それはひとえに、劇場側の良心がすごく感じられたからだ。日本映画にはこんなすごいものがある、こんな面白いものがある、というのを伝え続けたい――そんなキザなスローガンを掲げてたわけじゃないけれど、タダで配ってた「しおり」からも、そんな心意気が感じ取れた。丁寧で、気の利いた情報がサラッと書かれていて……。
 この本は、その並木座の歴史と、関わってきた人たちのインタビューを中心として構成された本です。著者である崇元友子さんの劇場に対する愛情がとても感じられ、芸のない褒め方だが……素晴らしいのひとこと。こんな素敵な本を作ってくださってありがとうございました。
 と、私的メモになっちゃってますね、いかんいかん。並木座に特に思い入れのない人でも、日本映画ファンなら興味深い事実が詰まっていて楽しい本だと思う。東宝の大プロデューサー藤本眞澄が生みの親だったことを私は初めて知ったし、有志として株主(配当一切なし、木戸賃御免すら無しという徹底振り!)に石坂洋次郎市川崑小林桂樹池部良源氏鶏太など多士済々な顔ぶれを集め、各々百万以上の資金提供をして始められたことも驚いた。オープニングパーティでは越路吹雪淡谷のり子が歌って華を添えたり、ブルーリボン賞の授賞式に使われたこともあったり……劇場の歴史がまさに、日本映画史の一側面なのだなあ。
 私は昔、小津安二郎の映画を観終えてから銀座の街を歩くのが好きだった。並木座のスクリーンに映っていた丸の内の風情が、ほんの少し周辺のビルにも残っていたからだ。『秋日和』や『彼岸花』の世界に自分がタイムスリップしたかのような気持ちになって、懐古的かもしれないが私は、嬉しかった。そんなビルも並木座も、今はもうない。

銀座並木座―日本映画とともに歩んだ四十五年

銀座並木座―日本映画とともに歩んだ四十五年


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