カウリスマキ新作『街のあかり』
ある男が、非情なまでに、徹底的に、不幸になっていくというストーリーだ。作中には恋のときめき、友だちとの語らいといった楽しいトピックは見事なまでに出てこない。しかし、ここまでロマンティックな話を、私は知らない。
フィンランドの監督、アキ・カウリスマキの新作――そのテーマは「孤独」。「厳しい社会の中でなんとか居場所を見つけようとする主人公、そのはかない夢は次から次へと打ち砕かれる」――こんな解説を監督自身がパンフレットでなさっているが、本当にまったく、その通りのストーリー。災厄が雹(ひょう)のように振りつけるつらい人生を、主人公の青年はずっと、黙々と歩き続ける。救いようのない展開が、ラストまで淡々と続いていく。
この作品のすごいところは、主人公のイノセントな心の本質が決して揺るがないところだ。倒れても、絶望しても、また立ち上がる。生き続ける。こんなことが実際あるだろうか。いや、通常の人間なら心は荒れて人を恨み、病んでしまうだろうと思う。それほどにこのストーリーが、主人公に与える「負の連鎖」は容赦がない。
しかし、カウリスマキが生み出した主人公・コイスティネンという青年は、どんなに踏みつけられても、再び立ち上がる。「この人はそういう人なんだなあ」と素直に、自然に信じちゃえるのが……すごい。
これ以上ないというホープレスな状況に追い込まれてなお、また立ち上がるコイスティネン。そんなラストシーンは寓話のように奇跡的で、美しかった。この主人公を見ていて私は、ドストエフスキーの「白痴」におけるムシュイキンを一瞬思い出した。
人間に対する監督の、ロマンティックな願いが詰まった作品だと思う。
○映画公式ホームページ→http://www.machino-akari.com/
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