若尾文子の選挙語録にみる「ザッツ・女優」

若尾文子

 なんだかもう旧聞に属してしまいそうな勢いですが、参議院選挙に立候補された若尾文子について。
 彼女の言動の数々に私はヒジョーに注目していた。(参照:3日のマイブログ)どんなことがあっても泰然と自らを崩さない女優・若尾文子。そのたたずまいと発言は、私に「ああ、女優だなあ……」という再認識と、ある種の敬意を払わせてやまなかった。これは私の「女優・若尾文子」に対するひとつの賛辞です。もう何度もネタにしたトピックだが、しめくくりとしてまとめてみたい。今日は若尾発言のアソートと、私の感慨を。


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若尾文子参議院選挙活動のおける言葉の数々、これはもうそれだけで「女優」というものの一考察ですね。先日テレビ朝日の「ワイド! スクランブル」で選挙活動の一部始終がまとめられていたが、いやーーー素晴らしかった! 堪能しました。
 「女優」、それも「大女優」ってな存在は、言い換えると「ひとり社長」みたいなものだ。自分の哲学と方法論で、芸能界を生き抜いてきたサバイバー。突然話が変わるようだが、よく昔なつかしの「宮尾すすむ」がテレビのワイドショーで、日本全国の名物社長を探訪してまわっていた。その紹介される社長のほとんどが、まあユニークな人ばかり。その哲学・成功論のオリジナリティと心酔ぶり、そして独自なファッション、ライフスタイル、家や車の趣味……すべてが「なんといわれようと私は正しい」という信念の強さを感じさせ、圧倒させる。
 うーん、これって方向が違うだけで、ある意味「大女優」にもあてはまる思考ベクトルだなあ、と思うわけです。(山本富士子の年輪のような眉毛、浅丘ルリ子がかつてフォトグラファーに「浅丘さん、僕はあなたの素顔が撮ってみたいんだ」と問われたことに対して、「これが私の素顔です!」とキッパリいいのけた事実、佐久間良子のフォーエバー・ヘアスタイル、どれもその「自分ワールド」だけに通じるセンスと彼女達なりのコンフィデンスだと思う)


 普通、違う世界に身を投じたりするときは、先例に倣ったり周囲を気にして同調したりするわけですね。しかし、実績と財のある「ひとり社長」たちはそーんなことヘイチャラ。だって素晴らしき金科玉条の「マイ・オリジナル方法論」があるんだもの。今までこのやり方を通して成功し、周囲を(結果的になんだが)オッケーさせてきたんだもの。そんな若尾文子の政界入門においての「大社長っぷり」が神々しく光るVTR、まさに名言の宝庫、珠玉の問答集でした。その印象的なおことばの数々を、ここに記録しておきたい。


■至言その1 「ピーカンな太陽、大嫌い。太陽!」
VTR冒頭、車から降りて歩き出た際の第一声がこれです。そう、紫外線に対する呪詛に他なりません。「忸怩たる思い」……そんな大仰な表現の意味がよーくわかる表情をしてらっしゃいました苦みばしる文子。そしてなおも「いやだなぁ……太陽に当たるの……」と嘆き呟き、手にはしっかりと日傘が握られています。なんと路上演説でも離さない、それは日傘。日本選挙史上、一番UVに悩み続けた候補者として記録に残されることでしょう。


■至言その2 「(日傘はやはり手放せませんか、という問いに対して)まだ(女優として)現役ですから」
政界参入にのぞむ、ということに対して思いっきりアンチテーゼを投げかけるこのアンサー、続けてVTRは有楽町で政党の所信表明のビラを配る文子を映し出し、中々受け取ってもらえないビラを「どうすればいいの、これ」とスタッフにマジに聞く彼女を露出しました。いや、配り続けるしかないんだよ文子!


至言その3「今日はあたくし、写真を撮られるような恰好じゃないんです」
写真撮影があると伝わってなかったようです、カメラを向ける報道陣に文子はダメと断固拒否。そのとき記者から上がった「おいおいおい……」という苛立ちの声がなんともスリリングなワンカットでした。イメージを大切にする「女優魂」というものを痛切に感じさせるひとことです。


至言その4 「黒川を当選させたい、そのために出てるんですもの、あたくしは」
いきなり立候補そのものを否定する発言です。ていうか、もう見事。大体「本気で受かろうと思ってないんだろうなあ」との見方が最初から大多数を占めていたようですが、そんなことを常人がやったらどうなるでしょうか。否定とバッシングの嵐だと思います。でもなぜかスルー。文子だもの、黒川の妻だもの。根本的にみんなが最初から「いいじゃないの文子だもの」と佐良直美の歌にのせて許しているような気がします。


 とか何とかいいつつも、「65267票」もの得票を得た文子、すごい神業です。こんな「からっかぜ野郎」な選挙活動でも反感を表立って買わず、なんだか許されている感のある文子。そう、社長にありがちな「だってしょうがないじゃない、あの方だもの」という不思議な納得感を生む「チャーム」(浮世離れ、という言葉に置き換えてもいい)、これをお持ちだからこそです。最後に落選した黒川紀章に関して、「自分の稼いだお金でやりたいことをやってるのだから、いい」と前置きしつつ、でも「あたくしは女ですから、現実的ですから。今の政界にその情熱を懸けるだけの価値があるかしら。できればあたくしは、その情熱を、建築だけにかけてほしいと思うの」そんな趣旨のことをのたまわれました。まったくもって全国民がそう思っていることでしょう。うーん、「自分」と「妻」に対する客観性の見事なアンバランス・バランス。なぜそこまで夫には冷静で自分には……。と、いう不思議な感慨を残しつつも、そのたがいっぷりこそが、今はもう失われた「スター」が輝いていた時代のスケールであり、「映画女優」というものの考え方なのだなあ、と思う次第でありました。


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