安倍首相辞任に思う その１

　「あんな時間に退陣発表するから、もう番組メチャメチャだよ！」ラジオを流しっぱなしの事務所で、そのとき打ち合わせをしていた。「J-WAVE」で人気DJ、ピストン西沢が大きな声でボヤいてるのがフト耳に入り、一瞬真っ白。止まる。ストップ。え……? パードン？ なんだって……た・い・じ・ん? 　タイ人?　 違う。まさか……安倍首相？
　もうね、その日に様々な人が「なぜ今!?」「あきれた」「無責任」こんなコメント出してましたが、うーん……まったく同じことしか思い浮かばなかった。ダメなもの書きだね私。「所信表明からたった二日間で……」という「？？？」がグルグル頭を回って不可解この上ない。その打ち合わせを終えて渋谷駅に向かったら、雑誌売り場に大きく各社スポーツ新聞の見出しに「安倍辞任」の文字が。ああ、本当なのだなあ……そして、思った。「週刊文春と新潮の編集部、くっやしいだろうなあ……」おりしもこの二大雑誌の発売日だったのですね。中を見ればやっぱり「安倍退陣のXデーはいつか？」（新潮）なんて記事があるではないか。今日なのだ。文春にも同様の記事があり、どんなにいい内容だとしても、「お間抜け感」漂うことこのうえない。これは、いろんな批判記事を書いてきた2誌に対する首相最後の嫌がらせか!? なーんてね。
　印象的だったのが古賀誠議員のコメント。辞任の知らせを聞いて一瞬絶句、そして数秒の間があった後ゆっくりと、「国民に……申し訳ないね」と仰った。そして「無責任すぎるでしょう、国民のためにやっているのだから」と非難でも怒りでもなく、淡々とした表情で述べるその姿に一瞬……（自分でも単純だと思うが）感心してしまった。私がその日ニュースを見た限り、こういった大義に殉じたコメントを「開口一番」述べた人は、この方だけである。
　まあねーだからって古賀さんバンザイ！ なーんていうほど単細胞ではないですよ。けれどもね……「国民のため」っていう言葉が「ナチュラル」に政治家の口からこぼれるのを聞くのなんて、滅多にあるもんじゃないでしょう。選挙のときの空々しい、何度も推敲された演説原稿を読み上げるときぐらいなもんだ。こういう憂国精神というか、公憤的精神って、私は絶対に政治家には（根っこの部分で）持っていてほしいもの。そこを感じさせてくれた人が、あまりにも少ないと思った。
（はい、もちろん「古賀さん、『役者』なんじゃないの？」「そーいうところで大義を見せるのが一枚上手ってもんでしょう」というような見方をする人も多いだろう。しかし私は、あの瞬間の古賀氏のコメントには説得力と「芯」を感じたので、その観点から書かせてほしい）

　いやーでも、この手のコメントって恐ろしいですね。政治家として「芸があるかどうか」というところが如実に出てしまうもんなあ。政治家における「芸」ってのは判断力でもあり、弁論術でもあり、カリスマ性の一端でもあり、なんといっても大衆を引き寄せるチャームだ。ただ「無責任！」と吊るし上げるような、芸のない批判をすぐさま出した鳩山由紀夫氏などには、いっつもそのへんの欠如を私は感じてしまう。おそろく……すっごく「いい人」なんでしょうね。でも、いい人が正しいことを言うことほど、「つまらない」ことはないのだ。あ、この人何かが似合う顔だなあ……スーツが似合わない顔だなあ、と思っていたが、今わかりました。「牧師」の服装が絶対似合う。なんか、黒く塗った「紙皿」みたいなものをチョコンと載せたような帽子が似合いそう。懐かしの「ドリフだよ 全員集合！」のコーラスタイムでいかりや長介が来ていたようなやつね。だからなんだってんでしょうね、フザけるのもいい加減にしときます。次回に続く。

○付記
話はいきなり変わるようですが、最近私は司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んでいる。この小説は文庫で8冊にもなる長編だが、話の佳境はひとことでいって、「日露戦争伝」だ。いやさあ、ここに出てくる明治の政治家、軍人たちの心意気というか……（すっごい誤解を招きやすい表現を承知で書きますが）「国をどうするべきか」「政治とは何か」という彼らの思い、その純粋な理念に、私はやられちゃっているんだよなあ。「志士ありき」なんてアナクロな思いに、とても「感傷的」に参っている。古賀氏の発言は、そんな私のロマンをちょっと刺激したのだった。

新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)

○今日は何の日
渋谷シネカノンにてハンガリーの監督、スサンネ・ビアの「アフター・ウェディング」を観る。いわゆるメロドラマで、ありがちな筋なのだけれど、不思議に退屈しない。強引な展開とご都合主義があるものの、120分をいきいきとした人間観で見せ切った。主人公の男が「ちょっとカッコいい丸山弁護士」に見えて、真面目なシーンでもたまに可笑しい。

○お知らせ
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