改稿:ぬらりくらりと福田康夫

お茶目なポーズもへいちゃら

 福田康夫の言葉というものに私は最近、妙な「懐かしさ」を覚えている。懐かしさ、という言葉の多くは概ね肯定的な意味合いで使われるが、この場合はちょーっと違うんだなあ。しかしまあネガティブでもない。というのは、こうだ。
 なんだかねえ……最近ズーッと良くも悪くも「顔に底の見える」政治家が多かったなあ、と再認識したわけです。安倍晋三をはじめテレビに出てくる政治家……小池百合子などの小泉チルドレン、因縁の農林大臣御三代、先の参議院で勝利した一年生の面々……野党連は言うに及ばず、みんな「怒ってる」「ビビってる」「喜んでいる」、基本的な心の揺れ動きがその顔にしっかり浮かぶ人たちであった。
 そこに久しぶりに現れた福田トーク。ああ、ぬらり。ああ、くらり。そうそう、「政治家」ってこーいうイメージの人々だったなあ。なんだか……「懐かしい」と思っちゃった自分に笑っちゃいました。政治家が突っ込まれたくないことを、執拗に畳み掛けられるシーンばかり見てきたものね、最近。そのときに露骨に不愉快な面持ちを見せたり、動揺するような、よく言えば若い人々ばかりが露出していた昨今。しかしここにきて福田康夫を見るにつけ思ったことは、「ああそうそう、旧来の『ザッツ政治家』って、いいときも悪いときも表情変わらない人が多かったなあ」と思い出したのだ。
 安倍さんはじめ最近見かける人たちってのは、不愉快なとき、辛いときの表情も分かりやすかったが、その逆も分かりやすかった。政策を述べるとき、聞かれたときの意気揚々としたその表情。「私は政治を変える、国をよくする!」みたいな希望に燃えるテンションも高かった。自然、陽と陰のイメージ振幅が大きくなる。ちょっとつまづいたときの「ショボン」とした表情のマイナスイメージが強くなるんだよなあ。その点、福田康夫はどっちも変わらない。ニッコリしててもブスッとしてても、あまり「芯」のところで大きく感情幅が揺れてないような気がする。うーん、老獪。ポーカーフェイスなようで、マトリックスに感情コントロールが自在。


 先日、TBS系の「報道特集」では、福田、麻生太郎の両氏を迎えての特番であったが、このときの「康夫マトリックス」は……フザけるようだが私シビレたなあ、笑わせていただきました。政治家ってのはこうでなくっちゃねえ。司会の田丸美寿々が色々聞くたび「ヌラッ・クラッ」っとかわして安全な、実のないコメントを出してくる。何事にもどー思ってんのか、どういう反応が心のうちにあるのか、よく分かんない。
「もしも総裁になったらってねえ……もしも、ってのは話してはいけないんですよ」「仮定を話すと、仮定でなくなる。仮定だ、と言っている部分を省いてしまう」「マスコミはハッキリ言わせたいんでしょうが、その職にまだ就いてないのに、実情が分からないのに、論議は出来ないんですよ」
 あらら……書いてみるとホントに何の実もないお話ですね……でもライブで聞いていると「ごもっとも」「お上手」「さすが」と思わせるような「そこはかとない重み」あるように聞こえちゃうんだから。『マトリックス』のキアヌ・リーブスのようにグイーンとのけぞり核心を避けて、怪盗『黒蜥蜴』のように尻尾つかませない男、それが康夫。そのトーク・スキルを見て私は「うーん……なんちゅうか……これって、不思議な安心感!?」と思ってしまった(まあ田丸美寿々も大してキッツイことは聞かないのだが、あまりにヌラヌラかわす福田氏に業を煮やしたのか「総裁になった場合の気概を教えてくださいよ!」と突っ込んだときは見ものであった。福田氏は一年生議員みたいな当たり障りのないことを述べてらっしゃいましたが)。
 福田康夫……(テレビでは)顔に出さないそのこころ。私がこの方の表情に、先にあげた面々のような「子供」じみた喜怒哀楽の揺れを直接見たのは、小泉時代田中真紀子に関するコメントを求められたときの一度のみだ。相当腹に据えかねていたのだろうが、あの時記者に向けた冷徹なまなざしが忘れられない。その向こうには真紀子を見ているのだろうが、まさに「蛇蝎(だかつ)」「唾棄(だき)」という目であった。
 その、人を人とも思わないような目が、不思議に私は好きだ。それを(パブリックでは)深く、堅牢にしまいこんでいる福田康夫、という人に合っていると思う。なんていうか……大局を見据える人というのは(まったくの直感だけでいうけれど)そういうシビアで冷徹で、ある意味人間的じゃない部分も必要な気がするのだ。政治家、というのは(私は)基本的に倫理と道徳が「NO」ということでも、「YES」と判断しなくてはならないときがあるんだもの(2002年のロシア・モスクワ劇場占拠事件なんかがいい例)。ただ、安倍さんの長所の一つであった「政策の分かりやすさ」という点はこの方にはない。技量は充分だと思うが、核では何を思っているのであろう。と、まだ総裁選結果も決まってませんが、組閣が楽しみ。


○今日は何の日
キネマ旬報の編集・タキザワさん・ヤスムロさんとランチを赤坂で。「Rusticanella」というイタリアンでリゾットとパスタを頂く。その地域に働いている人の紹介が一番ですね、味も雰囲気もおススメとおり美味しく、接客も快い。夜のメニューを見せてもらったが、かなり手の込んだ気合いたっぷりのメニュー、今度はこちらも楽しみたい。その後キネ旬に寄りましたが、近代的なオフィスなのですね、なんだか神保町辺りの年季の入った三階建ての自社ビルとかを勝手にイメージしていました。今日も夏日。


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