32歳の挫折

芸人に拾われるのだろうか……

「よい知らせではないんですよ……いえ、あの物件に勝るいいものを絶対に紹介してみせますからっ!」 アパマン渋谷店のAさんが私を激励してくれるが、その声が脳内で遠く小さくなっていく……。よい知らせでは、ない。ということは……ダメ。うん……ダメって、ことなんだよな……ああそう、マジで。ハハハ、ダメ、なのね。ああ……日本語の婉曲な表現がもどかしいッ! ムキーッ!! 「は、白央さま?」「ハッ!」Aさんの声で我に返る。2007年9月、私は不動産審査に、落ちた。
 「明後日には審査結果でます、まあほぼ大丈夫だと思いますけどね!」そう先日は楽観的に言っていたくせに……白央、変わりやすいのは秋の空と女心だけじゃないことを齢32歳にして知りました。「やっぱり職業欄の『フリーランス』、という点がどうしても大家様引っ掛かられたようでして……」Aさんの口調が、大物タレントを前にした梨本勝のような恐縮モードになっている。あなたが悪いんじゃないというのに……Aさん、あんた営業の鑑だよありがとう、こんな不甲斐ない客にも優しくしてくれるなんてねえ……。
 「今からもっといい物件探しましょう!」2時間後に事務所で、との約束をAさんとして電話を切る。なんか余りに畏まるAさんに申し訳なくて「いやーしょうがないっすよー、自分だって大家だったら不安でしょうしねーアハハー」なんて気丈に振舞っていたが、やめときゃよかった。電話切ったあとにグーンと正直、落ちましたね(笑)。なんていうか……頭の中に浮かぶネガティブワードの数々。どうせ私は「禁治産者」「社会的信用ゼロ」「落伍者」「ダメ人間」そんな言葉が浮かんでは消えて、脳内フリーズ。ああ、ゴーリキー……!
 目黒にあるとっても素敵な、手狭なマンションをみつけて私は浮かれていた。それでいて安く敷金礼金も1・1となんとも好条件。その場で即決、手付金も払って契約書も書き、すっかり引越し先は決まったものだと思っていた。頭の中では家具の配置なんかもう決めていたりして。「♪もしもー私がー家をー買ったなら〜」白い犬は飼わないが、ベランダに鉢でも買うか、なーんてワクワクしてたらこのザマ。そして軽率なことに、大家に即行「今月で出て行きます」と連絡を済ませちゃったりなんかしてたんだわ。あっははははー更に不幸は続き、この電話のあとすぐさま「大家さん、次に入る人って見つかってないですよね?」と尋ねれば「30日の夜に入れるか訊かれたんですけど、白央さん昼間には出られる?」なーんて聞かれたりして。水曜日(不動産管理会社のお休み日)挟んでたった二日で次の店子見つけるなんて……なんちゅう優秀な大家……。風化する心……「♪おもいで河には砂の舟〜もう心はどこへも流れない〜」さっきまで心のBGMは「小坂明子」だったのに、その何分後かに「中島みゆき」になろうとは……。
 うーん……以前いた編集プロダクションなんて零細もいいとこでしたが(3年間で昇給はトータルで1万5千円)、今までこんなことはなかったなあ。やーっぱりサラリーマン、って強いんですかね。などと言い訳してはいけない。フリーでもいいとこ住んでる人はイッパイいるのだもの。はい、恥を晒すようですが今日はそんな告白日記でした。これを書いているのは24日だが、まだ私の次の家は決まっていない。うひゃーコエーっ! 


○今日は何の日
同級生を無理やり数人で裸にし、モザイクをかけた上でインターネット上に載せ、「消してほしかったら金をよこせ」と要求(というか恐喝だ)、本人はそれを苦に自殺してしまう事件が起きた。耳を覆いたくなるというか、なんという極悪非道な! 悪質なチンピラの恐喝じゃねえか。主犯格A少年(17歳)は悪気ないとか言っちゃうのだろうか。ネットに載せる、ってことがどういうことか、分かってないのだろうか。分かってないのだ。放火写真を掲載した「くまぇり」とかも同じ精神性なんだろう。ていうかこの事件、主犯者が20歳だったらどういう罪になるのだろう。暴行、強制わいせつ(同性にはならないんだっけか……)恐喝、ものすごく悪質な犯罪じゃないか。とにかく死を選んでしまった18歳の子が哀れでならない。逃げてほしかった。この世にはあなたが受けた物凄く辛いことと同じぐらい、楽しく美しい物事があったのだ。それを知らずに死んでしまったことが、可哀想でならない。ただ冥福を祈る。


○蛇足
ネット……掲示板とかほっとんど見ないけど、これだけは確実にいえる。汚い言葉を実際に「書いてしまう」「打ち込んでしまう」と、絶対にブスになる。ブサイクになる。間違いない。人を呪わば穴二つ、というのは不幸が返ってくるのではなくて、人を恨んだり嫌ったりする言葉を吐いたり書いたりすると、その言葉が持つパワーに本人もやられてしまうのだ。それは知らずのうちに、確実に人相を悪くさせる。あと、そういう掲示板をよく読む人も少なからずそういう傾向にある。臭いものにはふたをしろじゃないが、強い言葉は覚悟を持って使ったほうがいい。


○お知らせ
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