放浪記 2

これは高峯秀子版

 つまり、こうだ。「即入居可」だったはずの物件は、諸事情により6日まで入ることまかりならん。その間の9月末〜10月5日の間、私の荷物・家具一切は不動産屋もちで預かってくれる、と。
「引越し費用はお幾ら見積もってらしたんですか」
「三万円です」
「ではその分だけ白央様に出して頂いて、超えた分はうちで持ちます」
渋谷アパマン某・A氏が立て板に水のごとく続ける。
 しまった……もっと少なめに言やぁよかった……などと不埒なことを一瞬考える。だが、Aさんの人柄を思うと非常にはしたないことに思われ、慌ててかき消す。
「その間は白央様……」
「あ、はい。友達のうちとか、ホテルとか借ります」
「さようでらっしゃいますか」
 ここは後で友人から「バカだねえ……そこで一押しすれば、何かあてがってくれたかもよ」と言われたポイントだったが、とてもそんなことは言えなかった。頭の中でサッと計算すると、仲介手数料から引越しオーバー代を適正価格で考えて差っ引くと、どう考えても2万円ぐらいしか儲からないはずである。
「これじゃAさんところ、殆ど儲けにならないんじゃ……」
「今回は儲けうんぬんじゃありません、ご迷惑何度もお掛けしてしまって。損が出てるわけじゃなし(笑)、気になさらないで下さい!」
 このキップが嬉しいじゃないの……粋だねえ(涙)。最初の審査で落ちたとき、「粘りに粘って交渉したんですが……」と汗をかく彼の申し訳なさそうな顔も、哀しいながらに嬉しかった。なにかその労に対して感謝したくて、お菓子を贈った。とても喜んでくれ、事務所中(4人)がニコニコしてくれた。しかしまさか、こんなに早くその義理が返されることになろうとは……。
 そんなことを考えつつ、約一週間分の着替えと身の回りのものを詰めていた。9月の末日、夕方過ぎに引越し屋さんがやってきて、あっという間に荷物を運び出していく。ガラーンとする家の中。いつ見ても、独得の感慨がある。いつもだと、次の家、次の街に住むワクワク感のほうが大きく、余りセンチメントな気分にはならない。けれど、この日はなんとなく、不思議にうしろめたい気持ちになった。「私を捨てたバツですよ」じゃないけれど、サッと2年足らずで去っていく借主をなじるような、そんなセリフを部屋に言われているような気がして、急いで部屋を後にした。向かう所などないというのに。


○今日は何の日
10月……ブログままならぬときに限って色々事件が。時津風部屋の弟子リンチ致死疑惑……「かわいがってやれ」というセリフの恐ろしさ。ただ、私が生きてきた世界とスポーツ(というか、日本的体育会)の世界の常識はあまりにも違う。向こうからしたら、私が覗いてきた歌舞伎の世界、日本舞踊の世界、女優さんの付き人時代の「常識」など、驚天動地、「信じられない!」という了解、コンセンサスがたくさんあるだろう。そこを踏まえて「どこまでがこの世界では茶飯事なのか」ということを知りたい。


○お知らせ
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