すれ違う人々・その3

東てる美さんではありません

 以前、コラムニストのペリー荻野さんが「小川眞由美」(旧・真由美)を見かけたときのことを、何かの雑誌に書いていらした。「彼女は全身真ッ黄色で、さながらビッグバードのようであった」こんな感じだったろうか。さもありなん、と思う。私が小川眞由美とすれ違ったときも、その「こしらえ」は真っ黄色ではなかったけれど、それはそれは強烈な印象を残してくれたものだ。今日は、ちょっとそのことを。
 ……蛇足ですが、全身真ッ黄色といえば当然のごとく連想されるのが「平山みき」(元・平山美紀)さん。「ラッキーカラーなんです」というただそれだけの直球な理由で全身イエローの彼女、私はこの人ともすれ違ったことがある。しかしあろうことか、彼女はそのときイエローをまったく身につけてはおらなんだ。なんとなく……悔しかった。

 閑話休題。私はそのとき、センター街から公園通りを抜ける道へ歩いていた。その頃「LOFT」に「アフタヌーンティールーム」という、カフェ兼パン屋があった。そこでパンをテイクアウトしようと入ってみれば、けっこうな順待ちの列が出来ている。エッチラオッチラ、おぼつかない手つきで一人の女の子がパンを包んでいた。これでは列も出来るよなあ、と思いながら並ぶ。
 すると何か……変な雰囲気を感じるのだ。ひとつ前に並んだ女の人が、おかしい。目には見えねども「ムーン……ムーン……」と、異様なオーラが放出されている。それは「いらいら」「ピリピリした感じ」、簡単にいうとそういうムードなんだが……その質量・レベルが尋常じゃあない。「臨界点ギリギリ」「測度計器ふり切れ寸前」「自然レベルを超えた放射能検出」とか、そーいう言葉に近い何かがある。ちょっと横に体をずらし、彼女をのぞいてみたら、まず「お鼻」が目に飛び込む。よく育ったセキセインコぐらいの鼻が、こんもりと鎮座ましまし天を向く。「小川眞由美だ!」即座にそう思った。
 ブラックレザーのハードなブルゾン、ピッチリとしたモスグリーンのパンツに、大ぶりのシルバーアクセサリーが耳に手に。ロックっぽいファッションなんだけど、そのあまりに白い肌が何にも増して存在感をみせる。なんというか……雪女みたいだった。あっけに取られた。眞由美は何もしていないが、あっけに取られたというほかない。ボーっとしていると、義太夫のような深く太い声で、眞由美は注文を始めた。「これが一個と、これを二つ」そんなシンプルなセリフだが、あきらかに「ああ待たされた!」という怒気を存分に含んでいて、恐ろしいことこの上ない。カウンターの向こうの女の子は可哀想なほどビビッている。多分彼女のポテンシャル以上の速さでパンを包んでいた。「小ヤギとおおかみ」「小娘と女衒」「かむろとやり手」そんな構図が思い浮かんで、なんだか、おかしい。お釣りをひったくるようにして、眞由美は渋谷の街に消えていった。「台風一過」、という言葉が自然に出てくる。帰り道、「女優だなあ」そう思わず声に出して、笑ってしまった。もう8年も前のことだ。
(つづく・次回はは鰐淵晴子編です。え、もういい?)

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