『告発のとき』―トミー・リー・ジョーンズ礼賛―

どこかデジャブ感のある画ですね……

 とにもかくにも、トミー・リー・ジョーンズ! 素晴らしい演技だったと思う。ほぼ出ずっぱりだが、彼の表情で121分持つといっても過言じゃない。観ていて本当に飽きない、「顔」だ。
 たまに流木を飾っている人、いるでしょう。トミー・リー・ジョーンズを観ていると、流木を愛でる人の気持ちが何となく分かる。長い期間、波に風雪にさらされて、漂ってきた時間の長さを感じさせる、流木の風合い。それと似たものを感じてしまう。
 彼が演じるのは退役軍人、ハンク。息子もまた従軍し、イラクに出征したが帰国してすぐ惨殺されてしまう。彼はその調査に乗り出すが……という話。監督・脚本は『クラッシュ』でアカデミー作品賞を受賞したポール・ハギス

 子供の遺体と向き合うシーン、妻に電話でそのことを報告するシーン、容疑者を発見し対時するシーン……とてもドラマティックで、非日常的な状況が次々に重なっていく。下手な役者なら大芝居を打って熱演してしまうところを、すべてやり過ぎず、押さえた演技に終始する。それがいい。情感が溢れて、切ない。わがことのように思えてくる。
 アメリカン・タフガイ、と書くと簡単だが……なんだろうな。正義感とかフェア精神とか、「アメリカの最も良いところ」が、マインドにしっかり根付いている男だ。日本的精神で例えるなら、「恥を知る」精神というか。トミーが構築したハンクという男の顔には、その精神がしっかりと表れている。だから観ていて飽きない。
 あることで気持ちが爆発して暴挙に出てしまい、警察に繋がれるシーンがあるのだけど……ここは「みもの」ですよ。黙って座っているだけなんだが、怒りが、憤りが、体じゅうに燃えたぎっているのがよーく分かる。争いを終えたばかりの闘犬みたいな目だった。それだけでドラマティック!

 刑事役のシャーリーズ・セロンも好演。セリフ術、アクションの綺麗さ、そして容貌と華――これだけ揃った女優が日本に何人いるだろう。ハンクの妻役にスーザン・サランドン。歌舞伎でいうところの「ごちそう」、なんとも贅沢な使われ方をしてます。しっかしトミー、女を受け止める芝居が巧い。あんな無骨そうな顔してケーリー・グラント級に女優の芝居を引き立て、支えるのが上手だ。『ブルー・スカイ』でジェシカ・ラングがオスカーを獲れた一因は、相手役がトミーだったからだと思う。今回も悲嘆にくれる妻の演技を受けて、際立たせる芝居をキッチリやっている。中々できないことだ。
 あ、そうそう。今年の助演女優賞フランシス・フィッシャーですね。もう決定! たった2シーンの出番しかないが、強烈な印象を残して見事というほかない。背中で演技の出来る人ですね、こういう人を名女優というのだと思う。ちなみに彼女、クリント・イーストウッドの奥さん。できる男は選ぶ女違うねえ……。

 フランセス・フィッシャー
○追記
と、ここまで書いて気づきましたが6月28日公開だそうです。あはは随分早くお知らせしてしまった。でも見て損はないと思う。3ヶ月以上ありますが、とりあえず雑感を書き留めておきたかった。


○お知らせ
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