『つぐない』 ―キーラ・ナイトレイ礼賛―

原題はそのまま「贖罪」

 「まばゆい」――そんな日本語を久々に思い出した。それほどまでに本作のキーラ・ナイトレイは、美しい。彫刻的な顔の造作、白磁のような肌。グレース・ケリーのように長い二の腕、シド・チャリシーのようにしなやかな脚。そして何よりも、眼差しが圧倒的に素晴らしい。恋する女の熱と潤いを帯びたそれは、ドラマティックこの上なく、映画的だった。一般的な美的概念を破るところがあるとすれば唯一、アップになるキスシーンで露呈する歯並びの乱れだが、それすらも不思議なエロティシズムを生み出している。
 『プライドと偏見』のジョー・ライト監督の最新作。「引き裂かれるふたり」――メロドラマの王道にして定番のテーマを、飽きさせることなく123分見せ切っていく。伝えられない思い・誤解・一瞬にして燃え上がる恋・嫉妬・戦争・別離……すべて、メロドラマの定石というか、オーソドックスな展開。すべて、今まで映画化されたようなシチュエーション。それなのに、退屈しない、させないってのが大したもの。監督の脳裏にある確固としたシーンイメージ、オリジナリティ、一瞬たりともイージーな画づくりをしていない職人性を感じた。
 どこまで観客に「なんて哀れな……」と思わせることが出来るか――これがミソだ。そういう憐憫の感情の揺れが大きければ大きいほど、メロドラマの成功度は大きくなる。主演のふたりが、幸せの絶頂からドーンと大不幸に陥っていく。そこに観客が感情移入できるかどうか。
 この作品はメロドラマを盛り上げる非常に高等なテクニックを、ラストに用いてくる。これが、効く。ちょっとあざといまでの演出なんだけど、そこは名女優、ヴァネッサ・レッドグレイヴの力を借りて成功させている。いきなり突き放されるような展開に驚くが、段々とふたりの哀れが身にしみてくる。いいメロドラマだった。
 海岸をふたりが幸せそうにたわむれるエンディング、まばゆく、切ない余情が生まれていた。4月12日公開。


○追記1
 と、随分綺麗に書いてみました。追記しておきたいのが、キーラ・ナイトレイのファッション。1930年代らしいすとーんとしたロング&スリムなシルエット、後ろを深くカットしたドレスの数々がとても素晴らしい。アカデミー衣装賞は惜しくも逃してしまったが、作品に見事な彩りを加えている。特にグリーンのドレスが際立って美しく、デザインはジャクリーン・デュランによるものだとか。ヘアスタイルも時代を反映させてあり、ウェーヴのハッキリした、日本でいう「耳隠し」というヘアスタイルもクラシカルな美貌を引き立てていた。私は彼女を眺めながら、ロマン・ポランスキー監督の『テス』に主演した頃のナスターシャ・キンスキーを思い出した。



○追記2
相手役のジェームス・マカヴォイも好演。ひ弱そうな彼が戦争に赴き、どんどん強く、逞しい顔に変化していく。計算された巧みな芝居だった。唯一アカデミー賞を獲った音楽、これが納得の出来(作曲賞を受賞)。フランスのピアニスト、ジャン=イヴ・ティボーデらしい切なく透明感のある音色と、作品がマッチした結果だと思う。
 ジェームス・マカヴォイ。

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