『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

26日公開だそうです

 ダニエル・デイ=ルイスがアカデミー主演男優賞を取った作品。20世紀初頭のアメリカで、石油発掘で財をなした男の生涯を描く。監督は『ブギーナイツ』『マグノリア』のポール・トーマス・アンダーソン
D=ルイスがポール・ダノという青年を徹底的にぶちのめすシーンがあるんだけど、これが……もんのすっごいですよ。本気で心の底から、憎しみというものが湧き上がっている。たぎるような暴力的衝動と、相手に対する嫌悪感。「息の根を止めてやる!」という火柱のような感情が炸裂していて、非常に驚いた。こんな悪のパッションを鮮烈に感じたのは、えらく久しぶりの体験。

 D=ルイスに何度もマジビンタを喰らわされ、泥まみれになり、首を絞められ、ズタボロにされるのがポール・ダノという役者。一度見たら忘れられない顔だと思う。内向的で、自分のことをうまく表現できないような、それでいて野心や成功欲も強いような……そんな青年がピッタリはまる顔。最初に見たのは『キング/罪の王』という作品だった。あのときもプライドは人一倍高いクセに内弁慶、みたいな役だった。そして結局、ガエル・ガルシア・ベルナルにナイフで刺されてしまう役(これも、本当に痛そうだった。グッサリと柔らかそうな白い肌にナイフが刺さるシーンは、生理的な不快感と恐怖に満ちていた)。「なんで僕がこんなひどい目に……」そんなシチュエーションが 最高にはまる役者だ。これからも、どんどん不幸な目にあってほしい。

 ポール・ダノ。「鬱屈」させたらアメリカ一番。

 それから、D=ルイスのセリフで「I drink your milkshake」というのがあるんですが……これ、アメリカで非常に突出したトピックになっているようなんですね。流行語のように、そのフレーズだけが話題になっているらしい。何か聖書とか出典があるのかな、と思っていたが……イマイチ判然とせず。「お前の財産も吸い取ってやる」みたいな意味かなあ……と私的には思っているのだけど。それとも宗教的になにか出典があるのだろうか。
 ラスト、ブラームスのバイオリンコンチェルトが効果的に使われ、見事だった。オペラを観たような気分になった。

○追記
先に書いたD=ルイスの破壊的な暴力と悪意。これに匹敵するものといえば、野村芳太郎監督の傑作『鬼畜』を思い出す。妾の小川眞由美が、正妻の岩下志麻に向かって暴言を吐くシーン。瞬間的に湧き起こった悪意、その強烈さは邦画史上トップレベルではないだろうか。私は「憤怒(ふんぬ)」という言葉の意味をこれで知った。
 ちなみにこの映画、主演の緒形拳は評伝「緒形拳を追いかけて」の中で「あれは岩下さんと小川さんの映画。ふたりが思いっきりやってくれたおかげで、いい映画になった」と語っている。


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