東京土山人に進路を取れ

これで1050円也

 大変だ! 蕎麦好きの人は急いだほうがいい。蕎麦屋「東京土山人」の蕎麦打ち職人、早内さんがいなくなってしまう。彼の打つ蕎麦は端正そのもの、香り高く上品で、美しい。まあ……次に入られるという方も、聞けば同じ門下なのだとか。だからそう間違いはないだろうが、細かいニュアンスはどうしても変わってしまうはず。彼の打つ蕎麦は当然のようだが、彼しか打てないのだもの。私はお昼にひとり、ここのカウンターで蕎麦をすするのが至福ランチのひとつだった。
 ああ……残念だなあ! 

 この店は、中目黒と池尻のちょうど中間ぐらいにある。目黒川のほとり、本当に目立たない店だ。もともと兵庫・大阪に四店舗を構えるグループで、東京に進出してちょうど半年ぐらい。グループ経営、と思って味をはかっちゃ駄目ですよ。非常にクオリティの高い、いい蕎麦屋さんだ。あと2週間ほどで関西の新店に移られてしまうというから、お近くの方で興味がある方は是非訪れてみてほしい。


 旨い寿司が、いい例だ。薬味というのは、毒消しや臭い消しに留まるものではない。味を膨らませ、合わさるものの香りを高めるもの――そういうことを、ここの蕎麦で実感する。出す寸前におろされる山葵や辛味大根を、ちょこんと蕎麦の上にのせ、一気にツユと吸い上げる。蕎麦と山葵が合わさって、新しい味わいと香りが鼻孔にフワーッと生まれ出る、その楽しさ! いい蕎麦だけが持つ、やわらかな甘い香り。思わず口角が上がってしまう。
 明日も行く。


■東京土山人
目黒区青葉台3-19-8 03-6427-7759


○蛇足

 こちらに行かれたら、まずせいろを頼み、その後で荒挽きの田舎そばを頼まれるといい。共に上品でスラリとした蕎麦だが、香りの立ち方の違いが面白いことこの上ない。写真は週がわりの「変わり蕎麦」、今日は土佐小夏という柑橘を練りこんだもの。これがめっぽういい。スーッと立つ爽やかな文旦のような香りと、蕎麦のきれいな部分の香りが手を取り合っている。初夏にまこと相応しい逸品だ。


○お知らせ
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