岩崎宏美ライブから想う「最近の歌詞の空疎感」

秋の女神のような衣装でした

 確かに、動機はノスタルジーからだった。
 私が生まれて初めて買ったアルバム、それは岩崎宏美の「夕暮れから……ひとり」だった。大ヒット・シングル「聖母たちのララバイ」が入っているLPで、私はこの曲が大好きだった。あのとき私は小学三年生……父・カズヒサは何を思ったか、行きつけのスナックに私を連れて行ったことがある。そのとき人生初のカラオケデビューをしたのも、この曲だった。アルバムデビューとカラオケデビューを飾った歌手、それが岩崎宏美。私にとって結構な「メモリアル歌手」である。
「妹と一緒にコンサートやるんだって。行かない?」誘いかけるのはIさん、30年来という気合の入った宏美ファンだ。私はなんとなく、うちらの母世代が「ボニー・ジャックス 世界の民謡を歌う」「芹洋子さん叙情歌の夕べ」に駆けつけるような絵がイメージされて笑ってしまったが、一度ぐらい生声を聴いてみたいと思って、行ってまいりました大塚シビックホール。バックは神奈川フィルハーモニー管弦楽団、ゴージャス!
■ ■ ■ ■ ■ ■
 突然ですが……最近の「はやりうた」における歌詞、これが私には、とてもつまらないものに思えて仕方ない。演歌も含めて、そう感じている。ただ会いたくて・会いたいと思う気持ちが届かない・やっぱり人恋しくて……とかなんとか、「あなたを思っています」「好きなんです」「苦しいんです」感情ダダ漏れというか、「僕は(私は)こんなにもあなたが好きなんだ」という詞想のオンパレード。なんていうか……自己完結しすぎじゃないか!? 
 私はこの手の歌を聞くと、「保健室慣れしている子供」が思い出されて仕方ない。なんていうか……先生が判断する前に、自分で決めちゃってるんですね。「熱があるんです」(早退させてください)「お腹痛いんです」(少し寝てていいですか)みたいな感じ。問答無用で「君を思うよ」「あなたがすべて、ほしいのはあなた」「君に語りかけるけど、返事はいらないよ」……いつも私は「それって相手も同意の上なのか!?」と思ってしまう。
 メロディには強くヒット要素を感じるけれど、この手の歌詞、私はノレないなあ……漠然とそんなことを最近感じていた。


 岩崎宏美による「歌謡曲」のライブをタップリ聴いて、なんとなく、その答えが見つかったような気がした。ひとことでいって、歌詞に対して込められている「熱量」の違いなんだと思う。
 先に書いた空疎感というのは、例えるなら「連続ドラマの8話目をいきなり語られているような違和感」、これだ。いきなりプロポーズの回を見てしまったかのようで、前後が分からない。人をそこまで好きになった人間のこころ、その前後が想定されていない気がする。
 岩崎宏美の優れた歌のいくつかには(というか優れた歌詞はどれも)、作詞者が第1話からラストまでをきちんと想定した上で、ひとつの歌にクライマックスの回を描いたような世界が感じられる。(「思秋期」のように、ドラマの1話から最終話までをダイジェストで語られるようなものもある。「マイ・ウェイ」なんかもその手の歌)。岩崎宏美が後半、「レ・ミゼラブル」からの「夢やぶれて」、そして「始まりの詩、あなたへ」「聖母たちのララバイ」とドラマティックな歌を続けて歌ったとき、「歌は三分間のドラマ」というフレーズを久しぶりに思い出した。スケールの大きい、歌唱表現力が豊かでなければ生み出せない音楽の世界を久しぶりに堪能した。ノスタルジーを超えた、グレードの高いライブだったと想う。
(5月16日 「岩崎宏美岩崎良美 Precious Night」)


○追記
と、思いっきり宏美のことしか書いてませんが、岩崎良美もよかったです。やっぱり「タッチ」がかかると無条件に体が反応しますねー。小学生の頃に好きだったアニメというのは、無条件に懐かしく、楽しいものだ。デュオで歌った吉田美奈子の「夢で逢えたら」、良かったなー。
 そうそう、最初はベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」だったのだけれど、良美が歌詞を間違えて一部の終わりに再度歌うというハプニングがあった。DVDに収録するので、間違いはNGだったんだそう。「分からないならモニターちゃんと見なさいよ」とドスのきいた声で笑いながらいさめる宏美、大笑いさせて頂きました。


○行状記
ずっと鰻の原稿を書いていた。友人・ホンヤさんが九州から来ていたが会えず。ごめんね。なんでも歯痛が止まらず、余りの痛さに羽田空港の歯医者で診断、神経を抜いて帰ったという。剛の者、という言葉が脳裏に。


○お知らせ
ブログランキングに登録。 どうか1日1クリック↓を。
http://blog.with2.net/link.php?198815
ご意見などはこちら→hakuoatsushi@yahoo.co.jp