「サウスポイント」そして「悪女について」

本屋で見つけにくかった

 なんとも、不思議な小説。すごく「ゆるい」のに、すごく吸引力がある。それは胸倉をつかまれるような、「ああ、面白くて読むのをやめられない!」的吸引力じゃない。うーーーーん……うまく説明できないけれど、小さい頃、絵本を読んでもらっていたときのような気分だ。読んでいるのに、「お話」を聞いているような。それも子供のときに、おとぎ話や西洋の童話を、寝しなに聞いていたときのような気持ち。あのゆるーい、独得の心地よさが全編を通じて漂っている。
 よしもとばなな語る物語の世界に、引きこまれて私は一気に読んだ。


 優しい人。あたたかい人。そういった「善性」を描くのが、本当に上手だと思う。いいひと、というのは一番描きにくい。天国のイメージはマンネリにして画一的、地獄のそれは無限――なんて例えはよく出されるが、いい人というのは、説得力に欠けるのである。そこをどうクリアするか。自分の中で、どういうプロセスと経験があって、「善性」を獲得したのか。そこを物語の中の人物像に植えつける、越し方としてのバックを造りだす。これって、人物造形のひとつの「いのち」だと思う。そしてさらに、それをグタグタ何行もかけて書き出すのではなく、そこはかとなく読み手に感じさせる、これが「高い」小説だと私は思う。この小説はまず、それがある。
 何点か「うっそぉ」と思わず声に出しちゃっうような物語構築上の大技・力技があるが、さほど気にならなかった。それは何といっても、全編に強く流れるハワイの自然礼賛が快ちよく、素晴らしかったから。ページをめくるごとに、南の島の風が吹くようだった。朝の山の香り、開いたばかりの白い花、夏の浜の夕暮れ。作品のいたるところから、まだ見ぬハワイの空気が感じられる。自然描写がない部分でも、哀しいこと、辛いことが書かれている文章でさえも、たえず南の島の風が吹いている。細かいケチなど、つける気もなくなろうというもの。


○付記
京都・大阪へ一泊取材。帰りの新幹線の友に、梅田の古本屋で「悪女について」を購入。本当に……有吉佐和子って困る。やめられない。とまらない。結局家に帰ってからもずっと読み続けた。体は疲労して眠りたいのに、続きが知りたい! 朝起きたら、文庫に指を挟んで寝ていた(本当)。昔テレビ化されたそうなんだが、このキャスティングが絶妙! 山田五十鈴の回だけでも、どーにか見れないもんだろうか。
※京都のこと、「わたしの渡世・食・日誌」にアップしてます!


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