水野晴郎「日本のスター」+「篤姫」

表紙は長谷川一夫

 最後にすれ違ったのは、何の試写会だったろう。六本木で、2年前ぐらいだったかな。そのときでも随分動きがゆっくりでいらした。『シベリア超特急』のTシャツを着てらした。水野晴郎さん10日に死去、76歳。夕日に輝く海、ムーディなトランペットの音色が印象的な「金曜ロードショー」、あのイントロがなぜか好きだった。どうぞ安らかに。
 水野さんといえば映画解説、そして「シベ超」ばかりが取り上げられるが、こんな素敵な本もあったということをメモしておきたい。キネマ旬報社から出ていた「日本のスター」という本のインタビュアーをされているんだが、これは名著ですよ。実にいい。

 まず登場するスターが凄い。ざっと岡田嘉子市川右太衛門長谷川一夫上原謙木暮実千代高峰三枝子入江たか子、藤田進、大友柳太朗、高峰秀子。特に藤田進が貴重ですね、他で、ここまで多く彼の晩年の言葉をとらえた本を私は他に知らない。黒澤明作品にあれだけ出た人だというのに。
 水野さんは全員に対して、とても愛のあるインタビューをしている。そしてどの俳優の作品も何とよく観ていることか。インタビュアーの基本礼儀なのだが、頭がさがる思いです。
 そしていかにもキネマ旬報社らしく、写真がふんだんに使われ、そのセレクトがまた素晴らしい。これは水野さんの意向もかなり入っているんじゃないだろうか。特に溝口健二の『雪夫人絵図』、木暮実千代がたたずむ写真は、日本映画スチールの傑作のひとつだと思う。また註の付け具合、まさに「かゆいところに手が届く」といった感じで、さすがの仕事。
 と、手放しで素晴らしい本なのだが現在絶賛絶版中。それに業を煮やしたのか、水野センセイは1996年に近代文芸社から「水野晴郎と銀幕の花々」という本を出される。これが不思議な本で、先の本から岡田、入江、高峰三枝子、秀子、木暮の5人の原稿をカットしたり増やしたりしつつ、他に15人の女優を足したインタビュー集なのだ。市川春代にはじまり(『鴛鴦歌合戦』の人ですね)、栗島すみ子、高杉早苗月丘夢路花柳小菊山田五十鈴淡島千景岡田茉莉子香川京子岸恵子京マチ子久我美子富司純子山本富士子若尾文子という豪華さ。こと京マチ子のインタビュー嫌いは有名で、これは貴重。
 と、すごい顔ぶれの本なのに……これが先とは対照的に、いっちゃ悪いが粗雑なつくりで残念この上ない。ああ、俺が編集したかった!!!
 とにもかくにも編集者が「いちばん簡単に楽につくろう」としたのがみえみえで、構成もへったくれもあったもんじゃない。初歩的なミスが多いし、なにより編集者が日本映画クラシックスに対する愛情のないのが見て取れる。まあ、インタビュー内容がいいから、いいのだけれど。
 とかく洋画の功績ばかりが喧伝されがちだが、日本映画にも実に造詣が深く、こんな素敵なインタビュー集をのこされたことをメモしておきたかった。合掌。


○この日の記録
 日曜日の楽しみ、「篤姫」ですが……私、心狭いなあ。高畑淳子の演技が気になって仕方ない。今日は水戸サイドを推したい本寿院(高畑)が、一橋側を推している篤姫に烈火のごとく怒る、というシーンがヤマ場だったのだけれど……あれじゃあ、女郎屋の女将の怒り方だ。第一、時代劇の発音の基礎からして間違っている。「そなた」というのは第2アクセントが正しく、よく間違われるのだけれど第1アクセントではピアノの「ソナタ」になってしまう。
 この大河ドラマ篤姫自体がファンタジーな設定だからいいじゃない、といわれる向きもあろうが、それは違う。篤姫は、姫らしいもの。本寿院は、将軍生母にして大奥の大権力者「らしく」ない。だから私は気に入らないのだ。誰が何といおうと、大奥で生き残ってきた女とは、あーいうものではない。それが演技で出来ないのなら、せめて末節ぐらいはきちんと発音なりしてほしいと思ってしまう。はい、なーにを偉そうにと思いでしょう。ごめんなさい。ただ、昨日今日はじめた女優さんじゃないのだ。つい多くを期待してしまって……と、こんなに本気で書いてしまった。そんなに好きになってるんだなあ、このドラマ。


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