指をはさむ夜

 豊子も、困る。かたときも彼女は放してくれない。佐和子にも苦しめられたが、豊子は、もっとひどい。このところ、寝不足な毎日が続いている。
 などとワザとらしく書いてますが……ハマってるんです山崎豊子有吉佐和子の『悪女について』を一夜読みしたばかりというのに、連日クマつくってます。今度は文庫本5冊の『沈まぬ太陽』を手にとってしまった。ああ……嬉しい後悔! ヤメラレナイ・トマラナイ。このフレーズが毎夜、頭にグルグル。
 まだ2冊目、主人公・恩地元がアフリカ転勤辞令を受け取ったところです。有吉佐和子とは全く別の吸引力で、読むものを引きずり込む豊子文学。このところ毎朝、起きると文庫本に指をはさんだまま寝ていた自分に気づく。豊子、放してェ。


 しかし、この恩地元という主人公。彼に対して「リアリティ」を感じられる読者は、いま一体何人いるのだろう。あの義憤を原動力とした不屈精神は、まあ見事なんだけれども……正直、私には小説上の人、想像上の鉄人に思えてしまう。こういった「気骨の人」って、恩地と同時代を生きた人にはどう映るのか。やはり「こんな人がいたらいいな」という人物なのか、「こういう人、昔はたまにいたよ」と思うものなのか。ここまで頑強でないにしても、「プチ恩地」はよく見られたものなのか。
「子供たちに縋られ、恩地は心が乱れそうになったが、日本で孤立している組合員のことを思えば、親子の情に流されることなど、許されなかった」(新潮文庫2巻・186ページ)
 この箇所に、私は激しく心を動かされた。
 そこまでして――瞬間そう思った。今なら親子の情を優先したとて、咎める人も少ないだろう。いや、何より家族を優先する人のほうが多数派じゃないだろうか。
「結局、会社は何もしてくれないもの」
 私が大学生時代の頃に、よく聞いたフレーズだ。時代と共に変わる価値観のゆらぎ、ここを大きく考えさせられる。
 この恩地、正義心……いや、義侠心といったほうがいいだろう、そういった気持ちから、労働組合長として会社と談判、ストも辞さず労働条件改善に望む。そのしこりから、壮絶なまでの懲罰人事を受け続ける。海外の僻地をたらい回しにさせられる。
 でも、辞めない。でも、折れない。その巌窟王のような強靭なマインドに、私は驚かされ続けている。


こちらもよろしく→「私の渡世・食・日記」http://d.hatena.ne.jp/hakuo0416/


○お知らせ
ブログランキングに登録。 どうか1日1クリック↓を。
http://blog.with2.net/link.php?198815
ご意見などはこちら→hakuoatsushi@yahoo.co.jp