「沈まぬ太陽 御巣鷹山編」

 後悔している。
 昨日私は、この作品のことを盲目的に「面白い!」「やめられない!」と単純に書き綴ってしまった。が、3巻目の「御巣鷹山編」を読み終えて、軽率だったなぁ……とひしひし感じている。
 いうまでもなく、1985年に起こった「日航機墜落事故」について書かれた章。このパートを読んで私は、「面白い」という言葉を使うことが、失礼というか……不見識だったなあ、と申し訳ない気持ちになってしまったのだ。
○遺されたほうの「地獄」
 524人が乗ったジャンボが、山に激突したのだ。どういうことになるか誰でも想像がつくと思う。あの忌まわしいニュース速報の文句「ほぼ絶望的」というフレーズが脳裏に。つまり、全員死亡ということだ。
 問題は、それから。そのあとのことが実に丹念に本編では描かれる。手垢のついた表現だが、まさに「想像を絶する」世界。
 五体満足な遺体は非常に少ない。頭部がない、半身がない、一部だけの遺体、それらをまず徹底的に探し出す作業が続く。
 事故が起きたのは八月。どんどんウジがわいていく。それをまず看護師が取り除く。医者が遺体を整え、一部だけの遺体……腕一本、皮膚だけ、かかとだけ、といった遺体も含めて、検視する。そして、遺族による確認。
 ご遺族は群馬県のとある学校の体育館に集められた。520名の方が亡くなられたのだ。その家族である。ザッと考えても、1000人以上の方がいらしただろう。そのときのお気持ちを考えるだけで、やりきれない。
 遺体の一部――爪の形や“たこ”の跡から、我が夫、我が子を当てる母や妻。絶望のさなか、片手、足首から下だけの遺体にすがりつき、泣き叫ぶ人々が溢れる体育館……。
 墜落現場は立ち入り禁止だった。けれど、「どこかに生き残っているに違いない」と、あてもなく山をさまよう人が後を絶たなかった。
 いち早く補償金の手配をはじめ、遺族が団結しないように手を回す会社側。補償金を狙ってしのび寄る心無い親族。家族を全員失い、世捨て人となる父……。


○遺書を託された息子
 ハードだった。
 特に、「父には反抗ばかりしていた」と後悔する青年のエピソードは思い出すだけで心が震える。彼は、無残にもグチャグチャとなった父の亡骸に対面する。顔や体は、包帯で巻かれていたので、その悲惨な姿を目にすることは無かった。けれど、血だらけの衣服は間違いなく父のものだった。倒れそうになったのを、なんとかこらえた。
 皮肉なことに、カバンの中身は無事だった。手帳を何気なくめくると、そこには、ラスト・メッセージが。いかにも堕ちていく機内で書かれたという金釘の文字。その字に滲んでいたのは、死の恐怖よりも家族を思い、慈しむ気持ちだった。
マリコ、津慶、知代子、どうか仲良く がんばって ママをたすけて下さい」
 私はそのあとを読んで、ひとり部屋で嗚咽した。多くの人に、このエピソードは読んでほしいと思う。


○追記
この本、結局この日に読了。これ以上長引かすと仕事に支障をきたすと思い、3冊一気に読んだ。この「御巣鷹山編」は、それ単体で読んでもOKというか、独立したひとつの物語として成立している。なので、「興味はあるけど……5冊はなあ」という人はぜひ抜き読みを。
 しかしカタルシスを中々与えてくれない本だ。現実には悪は滅びない、というリアルな視点なんでしょうが……最後の最後にちょっとしたスッキリ感がおまけされている。しかしやはり本はいい。なにかひとつ私に与えてくれた、と心から実感できた読書だった。


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