快著 「グ、ア、ム」

グ、ア、ム

グ、ア、ム

 直球に感想。
 おっっっもしろかったぁ!!! そう、「面白い」というよりも「おっもしれえ!」と書きたくなるような読書的コーフン、堪能させていただきました。
 北陸で育った姉妹が片や東京、片や大阪で暮らしている。姉は青春を就職氷河期ど真ん中で過ごし、ある種の虚無感と共に生きている。その反面教師か、着実に血に足をつけて生きることを善しとする妹。母親は二人を、いかにも田舎のおばちゃんといった感じでハラハラ見つめている。その三人がグァム旅行に行く珍道中がクライマックス。
 存じ上げなかったんですが、「劇団、本谷有希子」という(そのままだなあ、すごい自信!)劇団の主宰・作・演出を手がける方なんだそうですね。こーいうとき「世間的アンテナ」の指標と頼っている友人の編集・ヨシエによれば「相当有名」とのこと、あらら失礼しました。ちょっと調べてみれば、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の作者だったのですね。
 私は本や映画を読むとき、あらすじはもとより、作品自体に関する一切の情報を入れないで鑑賞するのが常なのだけれど……いやはや納得。戯作者らしく、すっごく演劇的にして映像的な文章。読んでる間、ずーっと場面ごとの情景がクリアに頭に浮かぶ浮かぶ。そして読めば読むほど、「三人の女を演じるベスト・キャストは誰か!?」ということを考えずにはおれなかった。それほどに、この姉妹は人間的で、立体的だ。
 人間には誰しも細かいクセや、不思議と執着してしまうアレコレがある。例えば、ペットボトル。キャップをはずして、包装ビニールを取って、軽く洗って回収に出す。これが一番正しいのは頭で分かっていても、どーにも面倒くさい。包装ビニールがうまく取れなくてイライラしたりする。いいや面倒くさい、と思って分別しないでゴミ袋に入れているのを、たまたま隣の人と出くわせて見られてしまったり……そんな折々での行動における焦り方、イライラし方、後ろめたい気持ち。それらの表情やアクションに、なんともいわれぬ面白みをつけるのが「役者の芸」というものだ。やり過ぎず、引き過ぎず。それでいてにじみ出る「人間くささ」。
 そんな達者な役者たちが、縦横無尽に動き回っているような小説だった。ああ、はっきりいってこの作品を映像化するのは無理だろう。この小説に紡ぎだされた会話の妙を表現しうる(歳相応の)役者が揃うとは、悪いが到底思えない。
 しっかしまあ、なんと愛すべき人間を生み出すことに長けた作家だろうか。どの作中人物もユニークでありつつリアリティに溢れている。そういったディテールを描き出すことは、ひいては全体を豊かに、大きくすることに繋がる。小手先ではなく、人間造形の上手な人というのはそういうものだ。
 シンプルにおすすめです。もう随分前のドラマだが、『やっぱり猫が好き』(それもゴールデン進出後ではなく、深夜枠だった頃)のようなノリが好きな人ならきっと愉しめると思う。


追記
8月には彼女の公演もあるようで、楽しみ。そうだ、本作を読んだ人と飲みたいな。議題はもちろん「母娘のべストキャストは誰か!?」これでしょう。これで3時間は飲めるはず。私は母なら何人が浮かぶが、姉妹がまったく思いつかない。いくら譲歩してもこの可笑しさを出せる二十代がいるとは思えない。長女を昔の室井滋にやらせたかった。本来、女には使わない言葉だが「放蕩」な感じ、それも「品のいい放蕩」というニュアンスが出せる女優でなくては無理な役だ。


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