赤塚不二夫さん、逝く+「篤姫」日記・5

安らかに

 「死なない男だと思っていた」
 毎日新聞で読んだ筒井康隆さんのコメントだが、まったく同じ気持ちだった。このブログにもメモしたけれど、先ごろ赤塚さんをテーマにした素敵なドキュメントが放映されたばかり(詳しくはこちら)。その中で親しい人たちは皆、寝たきりの赤塚さんのことを「ちょっと眠ってるだけ」「いきなりガバッて起き出しそう」「そして、これでいいのだ! っていうでしょうね」などといって笑っておられた。
 実際看病に当たられたご家族の方々は、勿論いろいろおありだったと思う。けれど、彼に関することはたとえ「病」「死」といった暗い事柄でも、どこか冗談めくというか、「さばけた」お話に自ずとなってしまうような気がする。そしてそれが不謹慎な感じにならない、それこそが赤塚さんの人徳なのだろう。
 赤塚漫画には不思議な「毒」があった。それは世間一般で日頃使われるような意味合いでの「毒」ではない。ブラックユーモアとか、風刺とか批判とか皮肉とか、そういったストレートなニュアンスじゃなくて……なんというか、「酒」「煙草」みたいなものだ。どちらも、基本的に体に良ろしくない。なのに二つとも、国庫の基本を支えるほどに購買されてしまう。非常に日常的な「毒」である。大変身近でありつつ、悪いものと呼ばれ、愛され……赤塚漫画って、そんな感じがした。
 そして何よりも、赤塚漫画には「理」(ことわり)があった。「これでいいのだ!」という言葉には、そのすべてが詰まっていたと思う。
 赤塚不二夫、2日肺炎にて死去。享年72歳。おつかれさまでした。ありがとうございました。


○付記
3日付の毎日新聞社会面、週刊誌「サンデー毎日」記者だったという萩尾信也さんという方の追悼記事が印象的だったのでメモしておきたい。「今春、先生は一度だけ声を上げた。配転で担当になったリハビリの先生が、なんと! 漫画の『おそ松くん』のチビ太にうり二つだった。驚いた目で『眞知子さ〜ん』。亡くなった妻の名を呼んだ。『チビ太がいるよ〜』。そう言いたかったに違いない」なんという素敵なサプライズだろう。合掌。


○今週の「篤姫
タイトルが直球「さらば幾島」。宇宙戦艦ヤマトラバウルときて松坂慶子。戦艦と戦地ときて幾島……みごとなシンクロニシティ。そう、篤姫の側近にして、毎度怒涛のがぶり寄りの如き大奥取り組みを見せた老女・幾島が最後の花道。「自分はやはり京を立てる気持ちが心にあるのです、いつかは姫様の邪魔に!」という気持ちから「下がらせてくださいませ」と願い出る回でした。「勇退」という言葉がおのずと頭に。いい別れのシーンでした。涙でボロボロのふたり
篤姫「幾島、ひどい顔をしておるぞ」
幾島「姫様こそ、私にしか見せられない顔でございますゥ」
篤姫「ハハハハハハ」
幾島「ウフフフフフ」
 いいシーンでした。あとやっぱり稲森いずみが巧い。この女優は「タメ」を知っている。一呼吸置く、その間の良さ。走らない芝居、というものをどこで身につけたのか。いやー素晴らしい。そして星由里子演じる近衛家の老女、徳川内にて誇り高き啖呵を切るシーンも貫禄充分。繊細でひそやかなイメージだった彼女の観を改めました。


○記録 
「日本の漫画を変えた天才」。2日死去した赤塚不二夫さんについて、同時代を生きた漫画家らからは、偉大な才能を評価する声が上がった。
 友人だった漫画家の里中満智子さんは「赤塚以前と以後で日本の漫画は変わった。100年先でも通用するセンスで、単なる『天才』という言葉では表現できない」と話す。
 破天荒な言動でも注目を集めたが、「日常生活をもギャグにしようとしていたが、内心は照れ屋で、『気楽に描いている』というふりをしていた」と振り返った。
 里中さんは、2002年に赤塚さんが倒れた後、見舞いを続けた。「最初はまばたき一つしなかったが、次第に髪の毛につやが出て、指先が動くようになってきた。奇跡を信じていたが」と声を落とした。
 漫画家の黒鉄ヒロシさんは「笑いとはハッピーではなく、死に近いところにあるということを追求した。笑いの骨頂というものを理解しており、作品に投影されていた」と評価する。
 漫画評論家呉智英さんは「『こっけい話』だった日本漫画の笑いを、爆発的、断片的なものに変質させた。漫画だけでなく、演劇や音楽にも影響を与えた天才だった」とする。
 アルコール依存症食道がんなど闘病生活が続いたことについては、「まじめすぎる人で、私生活も面白おかしくすることを義務だと感じてしまった。そのストレスから酒に走り、死期を早めてしまった」と語った。(了)
里中満智子(さとなか・まちこ)、黒鉄(くろがね)、呉智英(くれ・ともふさ)
(2008/08/03-00:49 時事通信社ニュース)

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