映画評というもの、そしてきもの〜『夜の流れ』より

豪華な映画です、しかし。

 私は、誰でも見つけられる欠点を10なり挙げるよりも、「私だけかもしれないが、ここが素晴らしい!」と心から思える美点を1つ見つけることが、映画評を書くポイントだと思っている。そこを大事にしているつもりだ。今、ちまたには映画評があふれている。それは、それでいい。しかし、指摘しやすいマイナスポイントを書き連ねる、それらを読んで溜飲を下げるということは、書き手読み手にとって……オーバーな表現をするけれど、精神の軽い崩壊を呼ぶ行為にしか、私には思えない。教室のかげで「あの人ってブスだね」「ホント、ブスだね」という会話をしているように感じられてしまう。
 だからどうした、といわれるでしょうが、そんなことを枕に書き留めておきたかったのです。今日は1960年の映画『夜の流れ』より、きもののことなど。
■ ■ ■ ■ ■ ■

 まったく詳しくないが、きものが好きだ。見るのが、好きだ。はい、いきなりイヤらしい言い方をします。正確に言うと、趣味のよい着物が、美しい所作によって着られているのを見るのが、私は好きだ。
 きものというのは恐ろしいもので、どんなにモノがよくても、動きが汚いとそれだけで魅力は半減どころか、無に等しくなってしまう。汚い、というとムッとされる向きもあるだろうが、「スカートだっから非常に綺麗な歩き方なんだよなあ、颯爽とするだろうなあ」と思う人が多い。つい、日頃のクセが出てしまうのだろうし、何より「急いでるんだもん、そんなこと構っちゃいられない!」てなもんだろう。分かる。
 なーんて偉そうに、失礼しました。私も歌舞伎研修学校に入って、歌舞伎関係の奥さん方、日本舞踊の方々、長唄やお囃子を支える裏方の女の人を観るまで、そんなことは露だに思わなかった。見慣れないと、さして所作と着物の関係など気にならないものだ。

 この成瀬巳喜男川島雄三の両監督による『夜の流れ』、この作品の最大の魅力はきもの、その美しさ、趣味のよさだと思う。調整は銀座の名店、「ちた和」。そして何よりも、所作がいい。きものの美しさを十全に引き出す、その身のこなし。
 おはなしは、料亭と芸者置屋のふたつを舞台にして繰り広げられる女のドラマ。つまりは芸者と女将という「いきすじ」の人々のきものが何十と出てくる。この頃の斯界のきもの趣味、それも一流どころのそれは派手派手しくなく、すっきりと粋だ。色の趣味も地味目で、それがかえって艶や香気といったものを引き出している。大人の女が選ぶ色目は白(これは細身でないと難しい、けれど)、黒、灰やら銀鼠から、ちょっと華やかでも濃目の青から紫、それも古代紫のような落ち着いた色合いが主。
 なんというのだろう……昭和30年代の粋筋、玄人の着物というのは不思議にモダンだ。パターンとしてはクラシックなモチーフを、とても大きく染めてみたり、モダン・アートのプリントのように扱ってみたり。
 特に草笛光子の着こなし、その動きは見事のひとこと。しかしまあ印象の変わらない人だ。この頃と今とでさほど換わった感じがしない。また、いうまでもなく山田五十鈴は完璧。日本でいちばん「縞」が似合う女優だと思う。この二人のきものの着方、身のこなしに注目してほしい。内股の歩き方、足袋が実に美しく動く。
 最後に演技のこと、この映画で一番輝いていたのは水谷良重(現・水谷八重子)。器量はいまいちでも、キップが良くてカラッとしていて、損得勘定がまるっきりダメ、お人よしでクヨクヨしない、どら猫のような芸者を痛快に演じている。あと、北村和夫がなめくじみたいな男を完璧に演じている。本当にツバ吐きかけたくなるぐらい嫌な男。うまいということだろう。
 きもの好きの人なら、機会があれば是非観てほしい一作。


○追記
ラストのほう、宝田明が新規オープンさせる「錦や」、あれはそのまま今ある浜町の「錦や」だろうか。店作りも似ているような……。


○記録
打ち合わせで、はじめて大崎にある会社へ。いきなり、迷う。はい、ちゃんと行き方を頭に入れなかった私が悪いんですが……しっかしなあ、こーいう駅再開発って、すごく不便じゃないかなあ、どこもここも! 駅全体がでっかいビルになっちゃって、動きにくいったらありゃしない。ちょっと反対側の出口に行こうと思っても一苦労。暑いのも手伝ってウラミさらに倍増。みんな品川駅みたいになってどーすんだ!? 駅なんか大きくなるなー! みんな原宿駅みたいでいい! 


こちらもよろしく→「私の渡世・食・日記」http://d.hatena.ne.jp/hakuo0416/
○お知らせ
ブログランキングに登録。 どうか1日1クリック↓を。
http://blog.with2.net/link.php?198815
ご意見などはこちら→hakuoatsushi@yahoo.co.jp